月明かりの下
飴玉をガリガリ噛み砕きながら坂を下る。
あたりはすっかり暗くなっていた。
空を見ると、雲の隙間から三日月がちらちらと覗いている。
小学生五人が鬼ごっこをしていた公園で、ひとりブランコに乗りながらぼんやりしていたらもうこんな時間。
小学生たちが帰ったのにも気づかなかった。
……そんなに時間が経ったのか。
彼女に別れを告げてからもう…。
───後悔はしていない。
彼女は泣いていたけど、認めてくれた。
わかってくれた。
さよならだけど、笑ってくれた。
最後にとびきりの笑顔で。
笑ってくれたんだ。
「ありがとう、さよなら」
頬に涙を残しながら。
口の中の飴玉はなくなった。
彼女がくれた最後のプレゼント。
味わって舐めることはできなかった。
思い出してしまうから。
会うたびにいつもくれた飴玉の味を。
あったかい手で渡してくれた飴玉の味を。
僕の存在を受けとめてくれた、認めてくれた、彼女の笑顔を。
…静かに風が吹いた。
雲に隠れていた三日月が完全に姿を現した。
僕はぼんやりしながら、綺麗にくっきりと浮かぶ輪郭線を宙に軽くなぞってみる。
このまま時が止まればいいな、なんて思いながら。
三日月はやがてまた雲に隠れていく。
時は止まらずに流れていく。
…時間だ。
帰らなきゃ。
さ よ な ら だ 。
───僕は闇にとけた。
噛み砕いた飴玉の欠片は鋭い切っ先で痛かった。
少しだけ、泣いたんだ。
月明かりの下