萩原研二

「え?今日宅飲み?どうしたの?珍しいじゃん松田から誘ってくれるなんて。」
「仕方ねーからな。」
「ふーん?伊達は?」
「伊達は都合悪いらしい。」
「そっかあ。じゃあお言葉に甘えて旭ちゃんのご飯食べにお邪魔しまーす!」

 松田の方から宅飲みに誘ってくるのは本当に珍しい。従兄弟に対する過保護度が高まる一方だから、いつもは俺が駄々をこねて無理矢理お邪魔するくらいなのに。まあ、松田の性格を考えれば誘ったからにはやっぱり無しということも無いだろう。とはいえ深読みしたところで思い当たることがあるわけでも無く、ならば純粋に夜ご飯を楽しみにしようと頭を切り替えた。明日は月に何度あるか分からない松田と非番が被っている日。これなら朝ご飯も松田家で食べられるぞー!と俺はわくわくのまま仕事に勤しむのだった。

 ただいま、と声を上げる松田を出迎えるように駆けて来たのは女装をしていない旭くん。おかえり陣平くん!とにこにこ笑う姿は女装してなくても文句なしに可愛いんだよねえ。

「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃい萩原さん!」

ああ〜〜この笑顔だけで疲れた体が癒されます。ありがとう‼そう思いながら視線を落とすと、玄関に見慣れぬ靴があることに気づいた。

「あれ?誰か来てる?」
「ふふ、お楽しみですよ。」
「え?なになに⁇」

さっさとリビングへ向かう松田の後を追い掛ける旭くんの後ろについて行けば。

「…………は?」
「よ、久し振り。」

キッチンに立っていた男の姿を二度見する。最後に見た時よりも髪の毛が短くなっていたけれど。それは、随分と久し振りに見る顔だった。

「はあ?何してたんだよお前!」
「はは、色々あって。」
「それで?なんでここに?」
「それも、色々あって。」
「こいつも旭に命救われたんだと。」
「はああ⁉」
「そんな、陣平くん大袈裟だよお。」
「旭ちゃん、鍋こんな感じで良い?」
「あ、バッチリです!ありがとうございます!」
「コンロに移動させるよ?」
「すみません、お願いします。」
「いいよ、任せて。」
「しかもめっちゃ馴染んでる⁉」
「もう一週間居るからな。」
「え、そんなに⁉」
「でも、諸伏さんやっと元気になったんですよ。」
「ははは、ほんとごめんなあ。」
「良いんです。いっぱい食べていっぱい寝るのがお仕事ですよお!」
「旭ちゃんは良く出来た子だなあ。」
「当たり前だろ。」

ダイニングテーブルに置かれた卓上コンロまで鍋を運んでいく諸伏を、不思議な気持ちで見ながら。松田と買ってきた酒の缶を何本かテーブルに出して行く。

「そっかあ、旭くん本当に同期との邂逅を果たしてるんだねえ。」
「ふふふ、本当に偶然ですけどね。」

からりと笑う旭くんの声はキッチンから聞こえてくる。視線を向けると、小さな
体を後ろからぎゅうぎゅうに抱き締めて細い首筋に顔を埋めた松田が居た。

「こらあああああ‼松田!イチャイチャするのやめなさい!」
「あ?」
「あはは、陣平くんくすぐったいよお。」
「ん、可愛いな。」
「今!今チュッて聞こえました‼ちゅーはダメ‼」
「うるせーな。諸伏を見習え。」
「はあ⁉諸伏お前!注意しなきゃダメだろ‼」
「いやあ、はは、なんか見てるの楽しくなってきて。」
「ンン〜〜〜⁉分かるけど‼」
「あ、萩原も分かるー?」

また、こんな風に呑気に話すことが出来るようになるなんて思わなかったなあ。そして、同期五人に旭くんを交えたメンバーで集まる日は、そう遠くない頃にやって来るのだった。