松田旭

「旭、久し振り。ものすっっっっっっっごく会いたかった。」
「あはは、マナちゃん凄い気持ちこもってるね。」
「当たり前でしょう。こんなにも恋しいのに全然会えないんだもの。」
「ありがとうー。お忙しいのに。俺も会えてすっごく嬉しいよ。」

 随分と久し振りに会う高校時代からの友人と待ち合わせて、今日はポアロでお茶会。一緒に課題の話をしたり、お洋服やバイトばっかりだった彼女の話を聞いていた日々がなんだか懐かしく感じてしまう。まだそんなに時間が経っているわけじゃないのに、就職し教師をしている彼女と大学院に進んだ俺とでは時間が過ぎていく感覚もきっと違うんだろうなあ、なんて思いながら。それでも、こうして会いたいと言って約束をしてくれることが嬉しいし、会えば楽しく話をしてくれる。元々そんな感じのところはあったけれど、ますます格好良い女性に磨きが掛かっている友人がとっても眩しい。

「お二人が揃ってうちに来てくださるのも、何だか久し振りですね。」
「確かに、別々では時々来てるんですけどね。」
「なかなかタイミング合わなくて、私は悲しいです。」

エプロンを着けた降谷さんがにこりと笑みを浮かべて、注文した紅茶やケーキを置く。うわあ、何度だって思うけどいつもいつも美味しそう。そして実際に食べてみたらやっぱり美味しい。俺もいつか降谷さんに料理を教わりたいなあ、とは密かに思っているんだけど。目を輝かせる友人と一緒に、ケーキを一口。んんー、美味しい。幸せーと頬を緩める友人を見ては思わず目を細めた。飴色の紅茶を飲んでほう、と息を吐き出しす。

「それで?結局、その男は旭と従兄弟のファンってところ?」
「ファンは大袈裟だと思うけどなあ。」
「良いじゃない。ストーカーじゃなかったんでしょ。」
「うん、そうだね。」
「まあ、私が旭を守ってあげたいけど。なかなか難しい部分もあるから。」
「あはは、俺、マナちゃんに守られちゃうの?」
「当然でしょ。」

息を吐いた友人は、少しだけ唇を尖らせる。その表情はすっかり見慣れたものだ。

「面白くないけど、こういうことは早めに従兄弟に言わないとダメよ。」
「はーい。また何かあったらすぐそうします。」
「私にも言うこと!」
「うんうん、分かってます。」
「それならよろしいです。」

皆過保護なんだもんなあ。思わず笑っていると、何かを企んでいるような意地悪い笑みが浮かんでいることに気付いて首を傾げる。ゆっくりと絡めた指に顎を乗せながら。ねえ、と呼ばれた名前。俺の返事に応えるのは軽やかな笑い声だ。友人は口を開く。

「従兄弟となんかあった?」
「ん?なんかって?」
「んー、例えば、何か言われたとか。」
「何だろう?分からないなあ。」
「じゃあ、最近あった恥ずかしかったことは?」
「恥ずかしかったことー?」

恥ずかしかったこと。恥ずかしかったことー???何だろう。そもそも、何で彼女はこんな質問をしてくるんだろう?恥ずかしい、恥ずかしい、最近かあ。そうだなあ。首を傾げながら視線をほんの気持ち上げていると、何となく脳裏に過ったのは陣平くんの真剣な表情。透き通るような深い青がかった瞳には熱いほどの温度が映っていて。低くて、良く耳に馴染む声が俺の名前を呼んで。それから、続く言葉は聞き慣れない。

「っ〜〜〜〜〜〜〜⁉」
「思い当たることがあるのね‼」
「えっ、な、何も!」

嘘なんて直ぐにバレるわよ!とやけに生き生きとした笑みを浮かべる友人を顔に貼りつけた指の間からそっと見る。嘘なんてついてないもん。何もないもん。絶対に絶対だもん。

「すごく可愛いけど残念だったわね!旭のそんな反応、今まで見たことない。」
「そんなことないでしょ⁉あるよ絶対!いつも俺こんな感じだよね⁇」
「いつも可愛いのはその通りだけど、そこまで照れてるのは初めてですー。」
「うう〜〜気のせいだもん、何でもないもん〜〜。」
「ふふふ、白状するまでケーキを食べさせ続けるから!!!」
「何それえ〜〜〜〜〜⁉」
「ほら白状しなさい!どうせ従兄弟なんでしょ!私の可愛い旭を誑かして!」
「誑かすって言わないでよお〜〜!」
「その通りでしょ!今度は何を言われたの⁉」
「うう〜〜〜〜〜〜〜〜。」

どうしよう、降谷さん助けて。そう思って見るのに、降谷さんはやたらとニコニコ顔でお皿を洗っている。タイミング悪すぎですよお〜〜。ええ、本当になんでもない。なんでもないって言っても、こうなった友人は誰にも止められない。それは分かってる。分かってるんだけど、でも、本当に、別に何も。うわーー⁉なんでこうなったの⁉なんで友人はこんなこと聞いてきたの⁉なんで俺は今陣平くんのことを思い出しちゃったの⁉うわ〜〜〜〜〜俺のバカ〜〜〜〜〜〜‼なんで〜〜〜‼でも、でも。陣平くんがずるいもん。最初に言われた日はあんなに照れてたのにさあ。まるで口に馴染ませるように少しずつ、少しずつ呟くようになって。それが段々、俺の反応を見るくらいの余裕なんか出てきちゃって。俺は言うのも言われるのも、恥ずかしくて仕方ないのに。意地悪な顔をしてたり、びっくりするくらい優しい顔をしてたり、その表情は色々だけど。涙が出そうなほどの熱をこめて言葉にするのはずるい。そうだ、ずるいんだ。格好良い陣平くんが悪い。俺は悪くないもん。照れちゃうのも、恥ずかしくなっちゃうのも、もっともっと好きになっちゃうのも陣平くんが悪いもん。大きく息を吐き出しながら、俺はゆっくりと両手を外していく。キラキラを通り越した友人の切れ長の瞳はギラギラと音がしそうなほど輝いていた。その様子に思わず苦笑する。

「あのね、マナちゃん。」
「なあに?何でも言ってみなさい。」
「最近、陣平くんがね、」
「うんうん、ゆっくりで良いわよ。」

唇を尖らせて、じとりと友人を見ては。俺に囁く陣平くんの声を思い出してぎゅう、と目を瞑る。恥ずかしい。あの声に、あの瞳に。どんなことを言われたって恥ずかしいけれど。息を吸い込んで、吐き出す。そして、陣平くんがくれる言葉を口にした。