わたしとルパンは基本的にはどこまでも不二子ちゃんに甘い。ルパン曰く「裏切りは女のアクセサリー」、そして「可愛いは正義だからしょうがない」というのがわたしの主張。若干の差異はあるものの、結局は同じだ。わたしたちは、不二子ちゃんの美しさには敵わない。

昨夜もそうだった。けれどいつもと違ったのはわたしたちの盗みが、珍しく半年も下準備だのなんだのに時間をかけたものだったことだ。それなのに、数え切れないほどの紙切れと同じ価値を持つ大きな宝石は結局不二子ちゃんの胸元に収まったままエンディングを迎えてしまった。次元と五右ェ門曰く、わたしとルパンの「反吐の出る甘ったれ」のせいで。

「・・・これ、朝食ってこと?」
「多分。・・・ねぇルパン。塩、三角だね」
「あらヤダ、何除けなんでしょーね・・・」

朝、と呼ぶには少し遅い時間帯。わたしとルパンがベッドから這い出てきた頃には、アジトには誰もいなかった。そして、いつも朝食が用意してあるはずのキッチンには、卵が数個と三角に盛られた塩。それだけだった。

由々しき事態だ。次元の機嫌のバロメーターはたまごである、という自分たちの唱える持論を思い出しながらわたしたちは顔を見合わせる。どうやら最低記録を更新してしまったらしい。口笛を吹いてニューレコード、と茶化すルパンをわたしは睨みつける。

「あーあ、ゆでたまごかぁ」
「・・・ほんとにそうなのけ?」
「え?」
「生卵ってパターンも、あるんじゃねーの」
「うそぉ、ボディビルダーじゃないんだから」

半信半疑でもう一度ふたつの卵に視線を移す、けれどもちろんわたしに見分けられるわけがなかった。言ったルパンも同じらしく。

「確か、なんか机の上でコインみたいに回すと分かるんじゃなかった?」
「それで、どうなったら生卵なんだ?」
「えー・・・わ、割れたら?」

「もうこうなったら、割ってみればいいんじゃねーの!」
「ええ?!」

焦れたルパンがオデコに卵を当てようか(そういえばこのひと、昨日そんなゲームするバラエティ番組見ていた)、というときだった。

「何してんだお前ら」

唐突に扉の開く音がして、わたしが肩をビクつかせながら振り向くと呆れ顔の次元の呆れた声。それと同時に背後からクシャッという何かが――というか卵が割れる音。

「なーんだ、ゆで卵かよ」

わたしには、どうしてルパンがちょっとがっかりしてるのか分からない。世界一の大泥棒の思考回路はときたまとっても難解だ。同意してあげられない代わりに、わたしはおでこに付いたカラを背伸びしてとってあげることにした。


...


結論、次元は別にわたしたちの朝食をゆでたまごだけにしたわけではなかった。わたしとルパンの早とちりだったらしい。今朝は冷蔵庫がほとんど空で、わたしとルパンもよく寝てるから朝ごはんと昼ごはんを一緒にしてしまおうと買い物に行って帰ってきたところ、というわけだ。

「せっかく煮卵作ってラーメンに乗せよう思ったのによ」
「ごめんごめん」

ルパンが食べてるのがなんだかおいしそうに見えたので、結局わたしもゆでたまごをかじっている。半熟のゆでたまごは、太陽が東から昇るのとおなじくらい、当たり前にとってもおいしい。

「というか、怒ってるって焦るくらいなら毎度毎度騙されてやるんじゃねぇ!」

キッチンからの説教を聞き流しながら、わたしとルパンはいつも通りだらしなくソファに沈む。多分、わたしもルパンも変わることなくこれからも不二子ちゃんには甘いままだろう。そして次元のほうもやっぱり変わることなく、結局許してくれるだろう。しょうがないのだ、太陽が西に沈むみたいに、当たり前にそういうことになっているんだから。
-meteo-