再会って、どうしてこうも緊張するのだろう。はやく会いたい、とはいう気持ちとその裏側にべったり張り付く不安に、顔の筋肉とうまく意思疎通が取れなくて好き勝手にピクピクと動くのを感じた。これはよくない。一度目を閉じて、視界に入る「万事屋銀ちゃん」という看板を一回シャットアウトする。はい、おおきく深呼吸。平常心平常心。そう言い聞かせて扉に手を掛けようとしたそのときだった。わたしが触れていないのに、勢いよく音を立てる目の前。ちょっと待って、心の準備!

「・・・あれ?」
「・・・・・む、なまえ、か?」

出てきたのは、血まみれの小太郎だった。

とりあえず、いま銀時は不在で小太郎のケガは銀時の家で飼っているペットによるものらしい。近くのファミレスとやらに入ってそう聞かされて、なぜかほっと胸を撫で下ろしている自分がいた。目の前の小太郎だって結構変化している。変化、じゃなくて正しくはきっと成長なのだけれど。万物は流転するという当たり前のことをすっかり思い出してしまったわたしはもう、銀時に会うのがなんだか怖くなってしまっていた。

それから小太郎はたくさん話を聞いてくれた。戦の終わり、宇宙へ旅立つ辰馬を見送りにいったつもりが自分が宇宙船に迷い込んでしまったこと。そこでなんとか下働きとして潜り込んでひっそりひっそり地球行きの便を探していたらこんなに時間が経ってしまったこと。途中でマフィアの船に間違えて乗り込んでしまって晋助みたいなひとに助けられたこと。ひととおり勢い良く話し終える。

「それは、高杉だろうな」
「だっ、だよね・・・ターミナルで見たよ、お尋ね者の張り紙。あ、小太郎もか」
「ああ、そうだな」

その眼差しや声色だけで、3人に訪れた変化をなんとなしに理解する。恐怖はさらに増してゆく。乾ききった喉に「銀時は」という疑問が張り付いてはがれない。そのままごくり、と飲み込んだ。

「・・・でさあ小太郎くんや、そのお隣は誰?」
「エリザベスだ」 『エリザベスです』
「・・・・・」


銀時に会いたいのはやまやまだけれど、やっぱり緊張するし心の準備ができていない。要約するとそんなことをごにゃごにゃと告げると、小太郎は嬉々としてエリザベスの着ぐるみ、というかそのものを取り出した。中に入ればエリザベスになれる、俺と歩けば容易に銀時に近づくことが出来る。そう言う小太郎のあまりの気迫に、特に反論することもできずに頷いてしまった。

「おいなまえ、・・・じゃなくて、エリザベス、こっちだ」

小太郎に手を引かれて我に返る。目の前には「万事屋銀ちゃん」、ではなくその下「スナックお登勢」の文字。ためらいなく開かれた扉のその先、カウンターで肘をついてお猪口を傾ける銀色の男。

「なんだよ、うるせーと思ったらヅラかよ」

呆気なく扉から現れた銀時は記憶のそれとは随分変わっていた。相変わらずなのは綿菓子みたいな銀髪と首を掻く仕草ぐらい。私はと言えば、見えない手が心臓を鷲掴んで痛いぐらいだった。本当にエリザベスを被っていてよかった、と思う。潤んだ瞳は誰にも見られずに済む。

-meteo-