ここ数日、しつこく追われている。命の危険はあまりない。相手は既に割れている。ひょんなことで知り合ってしまったルパン三世という猿面と、その横にいつもいるなまえという女だ。

「・・・なんでココに居やがる」
「そろそろ諦めたらいいのにねぇ」
「うるせえな」
「まーそう言うと思ったけどさ!」

ケラケラと心底楽しそうに喉を鳴らして笑うなまえを睨みつける。もちろん表情に変化はない。アジトと呼ぶには廃れている、煤けた廃ホテルの一室。ここ最近俺が拠点にしていたこの場所を誰かに教えた記憶はないし、漏れるような心当たりもない。寝心地が最悪ではあるが唯一のベッドを陣取られているので、不愉快ではあるが古臭い椅子に腰を下ろして煙草に火をつける。

「なんでそんなに意地張ってんの?次元って、絶対ルパンのこと気に入ったでしょ」
「・・・・・」
「まあでも、正解かもね。ルパンは完全に次元と組むって決めちゃったから、時間の問題だし」

無防備そのものといった様子で猫みたいに伸びをして、またシーツに沈む。華奢で、思い切りよく手に力を込めさえすればそれだけで事切れてしまいそうなただの女だ。けれど眼だけはギラギラと輝いていて、それはあのルパン三世と瓜二つだった。その瞳の狂気だけで、腰のマグナムに伸ばしかけた手はたやすく止まってしまう。俺の身体を弱い電流が、寒気に似たなにかが駆け巡る。

「わたしたち、ほんとうにすっごく退屈してたの。だから次元に会えてすごく嬉しい」

それはとろけるような、極上の笑顔と言っていいほどだった。思わず生唾を飲んでしまうような。

「・・・俺ぁお前らなんてゴメンだけどな」
「うーん残念!もう遅い!」

その瞬間だった。バキバキッという乾いた木の割れる音、轟轟と腹に響くエンジン音、鮮やかな黄色のメルセデス・ベンツSSK。そいつが入ってきたせいでかろうじて部屋の体裁を保っていた場所は一気に荒れ地に成り下がる。その凄まじい風圧に帽子が部屋の隅に飛ばされた。

「ワーオルパン、随分いい車盗ってきたじゃん!」
「ヌッフッフ!なまえにしちゃよくわかってんじゃねーか。 なんてったって1927年型・エンジンは500馬力よ!」
「あっそうふーん。でもさあ、これどう見てもふたり乗りなんだけど」
「そこはなんとかなるっしょー!・・・なあ、次元?」

にやにやと笑いハンドルにもたれ掛ってこちらを見るルパンと、そのルパンを左の隅に押しやって無理やり開けた助手席をバンバン叩いて俺を呼ぶなまえ。こっちももちろん盛大ににやついている。段々と大きくなるパトカーのサイレン。こいつらどうやら、痺れを切らして強引な手段に出たらしい。

「・・・ハァ、わかった。俺の負けだ」
「「にっしっしー!」」

同じ年貢の納め時なら、こっちのほうが幾分マシだ。なんてのは建前だが、言ってやることもないだろう。ゆっくりと息を吐き出してから煙草の火を足の裏で消し、帽子を拾う。被り直してなんとなしに見た割れた姿見に映った自分の瞳は笑っちまうほど、あいつらとおんなじだった。

この夜が死ぬまで、


これからきっと、永遠に近い時間を俺はこいつらと退屈を殺すために過ごすに違いない。それは予感というよりは宇宙の法則に近い確信だった。


「ヒャッホー!これでわたしたち快適な朝ごはんにありつけるね!ルパン!」
「オイ、待てなんだそれ」
「盗撮しててほんと涎でるかと思っちゃったよ、次元ってば炊事洗濯完璧なんだもん!」
「いや実際、危なかったぜ。俺たちゃもうレトルト地獄で死んじまうかと」
「・・・・・やっぱ降りる」
「ちょっと次元ちゃーん!?」

(2015.03.17)結局オカン次元


-meteo-