※ルパンコナンの映画のはなし×3



ルパンと次元と朝食

早起きは気持ちがいい。爽やかな朝日の効果は絶大で、薄暗い裏通りに位置するこのアジトも少しマシにしてくれる。そんな機嫌の良いわたしとは対照的に、ルパンは不機嫌まるだしで子供みたいにほっぺを膨らませて携帯の画面と睨めっこしている。淹れたてだよと私が手渡したコーヒーにも口をつけないし、こりゃ結構きてる。次元と顔を見合わせるけれどいつものこったろ、とルパンを気にかけることなくソファに寝転んだ。

「でさでさ、なに怒ってんの」
「そりゃあ勿論、不二子ちゃん」
「裏切られた、か?何度目だと思ってやがる」

「・・・をたぶらかした怪盗キッドとかいうやつに決まってるでしょ!!!」

投げ渡された携帯をふたりで覗き込むと、首に悪趣味なものを取り付けられた囚われの不二子ちゃんがいつもの「助けて」に加えて「キッドさまに頼んじゃうから」と言う動画が再生された。これがどうしてキッドへの怒りにつながるのか、甚だしく疑問である。

「うわぁ・・・」
「完全にキッドとばっちりじゃねぇか」
「大体怪盗キッドって名前がもううちのじっさまとかぶってんの!!!なに頭に怪盗とかつけてくれてんのよパクリでしょーよパ・ク・リ!」
「怪盗だから怪盗って名乗ってるだけじゃん・・・」
「つうかその前に不二子とそいつ面識ねえだろ」
「もう!!ふたりともだまらっしゃい!!!」

ちょっとでもルパンを気にかけたわたしが間違ってたなあ、と地団駄踏むルパンを横目にして、買ってきたBLTサンドを袋から取りだしてモーニングといそしむことにした。一切れ、とねだる次元の手を避けながら投げ出された憎たらしいほど細長い足をどかしてわたしもソファに座る。次元が読んでいた新聞を覗き込むと何やら身に覚えのある字面、一面にでかでかと踊る文字と写真。

「あー、これが不二子ちゃんが言ってた『キッドくん』なんだね」
「おー、なんかアイツにちょっと似てるよな」
「ん?・・・ああ!コナンくん?次元も好きだねえ」
「うるせえな」
「パパだもんねぇ」
「やめろ」

確かに、ルパンの持ってきたコナンくんの資料にあった、「新一くん」に彼はなかなか似ていた。不敵な笑みもなかなか魅力的。あのかわいいコナンくんもほんとうはこんなに大きい男の子なのだと思うと不思議だ。

「確かにこれはルパン三世も完敗だね〜」
「ちょっとなまえ?!なーに言ってくれちゃってんの?!!」
「だって、ルパンよりだいぶ綺麗な顔してるしー」
「若いからお前より将来性あるしな」

「うるさいうるさーい!大体次元もヒゲヅラのオッサンだろーが!!!」

ルパンが叫びながら次元を指さす。つられて私も次元のほうを見ると、罵られた本人はなんのその。あろうことかわたしの手首を掴んで自分の口元へ引っ張って、サンドを大きな口でガブリとしてひどくご満悦そうである。不意をつかれたわたしは体ごと寝そべる次元の体にダイブしてしまって恥ずかしくて仕方がないというのに。恥ずかしい、そして怖い。間違ってもルパンのほうを向けない。

「たまに食うと結構うめぇな」
「ちょっと何、してんの・・・ちょっと、離してってこれ全部あげるから」

「おいルパン、俺がなんだって?」

ぺろり、と指先に生暖かい感触がしてわたしとルパンは身を震わせる。わたしのは羞恥で、ルパンのそれはもちろん怒りだ。

「ちくしょーー!!俺だって不二子ちゃんとイチャイチャしたいっつーの!!」


次元とコナンとバーラウンジ

「『口癖はバーロー』ってこれすごい、ほんとだった!」
「っつーことはこの『ボクちょっとトイレ』もそうだってことだな」
「ちょっと!なんだよそのメモ!」

「相変わらず仲良しだねぇ〜〜」

ニヤニヤしながらメモを読み上げる次元に勢いよく食い掛かるコナンくんが可愛くて仕方ない。このじゃれあいはぜひともスマホに納めなくては、とポケットを探っているとバーテンダーさんがわたしの分までレモンパイを持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます!すいません煩くて」
「いえいえ、とてもいいご家族ですね」

にっこり邪気のない笑顔を向けられて普通うっと言葉に詰まってしまうところを、淀みなく「パパもママも大好き!」と言いきれてしまうコナンくんの踏んできた場数が推し量れた。体はこども、頭脳はオトナというのはなかなか苦労するものらしい。

「ねぇ次元聞いたー?わたしママだって〜〜」
「はッ、まだまだガキのくせして・・・何だ、お前パイ食わねぇのか?」
「あっばか!また!!!いま食べようと思ったのに!!」

「・・・パパとママって、相変わらず仲良しだよね」

かわいい息子の目線がなんだか冷たく感じるのは気のせいだろうか。とりあえずそんなこんなでわたしのスマホには掴みあう親子(仮)の写真とアイスコーヒーを啜るジト目の息子(仮)の写真が保存されたのだった。


不二子と哀とお風呂

不二子ちゃんが「哀ちゃん」を連れて戻ってくるなり汗をかいたと騒いだ結果、何故か全員でお風呂という流れになってしまった。それなのに言い出しっぺの不二子ちゃんは電話してくると出て行ってしまったのでバスルームにはわたしと哀ちゃんのふたりだけだ。恥ずかしがっているのはわたしだけのようで、哀ちゃんの表情は至って変わらない。ああでも、少し呆れているようにも見える。こういうときってどうしたらいいのだろう、バスタブの中で膝を抱え込む。

「・・・あなたも、ルパンの仲間なの?」
「・・・・・やっぱり、見えない?」
「情報にはなかったから驚いただけ」
「ああそっかぁ・・・毎日一緒にいるけど、盗みには出してもらえないの」

自然と声がワントーン低くなったのに自分でも驚いてしまった。せっかく(外見は違うけど)同じ年頃の女の子と話せるチャンスなのだ、明るい話をしなくては。話題を変えようと慌てて顔をあげると、それより先に哀ちゃんが口を開いた。

「いいんじゃない。それって、大事にされてるということだと思うけど」
「あ、ありがとう哀ちゃん・・・!」
「あ、『哀ちゃん』?」
「え、だめだった!?!」

「あらなーに、もう仲良くなったの?」

勢い良く音を立てて扉が開き、豊満なボディと色気を隠しもしない不二子ちゃんが嬉しそうにわたしたちを覗き込んだ。なんだかわたしだけ舞い上がってしまってる気がして恥ずかしくなる。もう一度湯に首ぎりぎりまで沈めてこっそり哀ちゃんを見遣ると、同じような表情の哀ちゃんと目が合った。

「・・・名前、」
「へ?」
「教えてもらわないと、私はなんて呼べばいいかわからないじゃない」
「・・・!!!」

(2015.01.31)

-meteo-