「・・・ていうかねぇお前ら、今何時だと思ってんの」
「バカだねぇカカシ、時計見えないの?2時に決まってんじゃん」
「深夜のななまえ。それなら、ここが何処かは知ってんだろうな?」
「カカシ、前から思ってたんたがお前の部屋は少し殺風景すぎやしないか?今度丁度いい色鮮やかなトレー、」
「ニング機械はいらないからね、ガイ」

文字で表すなら、はぁ、の後ろに「ー」を5個ぐらいつけなきゃいけないほどのオレの長いため息なんて目の前のふたりは聞いちゃいない。言いたいことはたくさんあった。なんで勝手に入ってきてんの仮眠取ってたのに、とか。それからお前らは正規部隊の上忍と特上だけど、オレはバリバリの暗部なわけですよ、とか。自分で言うのもなんだけどエース級。これは少し寒いか。まぁとにかくここで強調したいのは、任務が終わったガイとなまえとは違って、オレはあと2時間もしたら任務に出なきゃいけないってこと。それなのに、

「にしても、なんかカカシ見るの久しぶりな気がするわぁ」
「そうだぞカカシィ!最近付き合い悪いぞ!」
「まぁもうそろそろ夏だからさぁ、ガイの暑苦しい顔見たくないっていうのはわたしも分かるけど、」
「何言ってるんだなまえ!夏と言えば青春!青春と言えばこのマイト・ガイじゃないか!!!」


どうしてこいつらはオレの顔を見に来るためだけに、夜中にオレん家に来たりできるんだろう。それも、任務帰りに直行で。煤けたベストや全身タイツ、かすり傷のついた頬、僅かに残る血と土の臭い。正規のSランクなんて暗部のそれと大差なんてないくせに、

「青春ねぇ、、あ!今度花火しよーよ、あと紅たちがビアガーデン行きたいって言ってたし」
「よぉしカカシ!30回目の勝負は線香花火に決まりだな!」

どうしてそんなに朗らかに笑えるんだろう。ふたりの突撃癖なんて今に始まった話じゃないのに、いつまでたっても慣れない。体がムズムズしてしまう。真っ直ぐな視線を向けられて、言葉に詰まったオレが言えたのは弱々しい離脱だった。風呂に、入ってくるよ。それにすらもガイとなまえは転んで頭を打つなよとなぜか嬉しそうに笑う。それを見てオレはもう少しで悲鳴をあげてしまいそうだったのを必死で耐えたっていうのに、それなのに。

風呂から上がって水でも飲もうと、気だるく冷蔵庫を開けるとそこには見覚えのないお土産の山、山、山。少しでも触ったら雪崩が起きそうなほどに詰め込まれてる。おおよそ食べ物系はコンプリートしてしまいそうな勢い。店でも開くつもりか。こんなの食べきれるわけ無いだろう、そう思ってもう一度、あのため息をついて迷惑千万だという顔をしてやろうと思ったのに。

ダイニングテーブルにもお土産の箱という箱が積み重なっているし、その箱の山のもっと奥に、つまりリビングでふたりがぜんまいの切れた玩具みたいに床に寝そべって眠りこけているのが見えるものだから。

任務前で張り巡らせた緊張はどこかへふっとんでしまったらしい。情けなく女の子みたいに体の力が抜けていく。へなへなとしゃがみこんでオレはふたりを呆然と見つめる他なかった。もう降参だ、と呟いた。

他人から言われ、自分でさえそう思っていた「冷血カカシ」という言葉が、ゆっくりと瘡蓋のように剥がれてゆくような気がした。父親、オビト、リン、そして先生。己の無力さを憎んで繰り返し自分に付けた傷を、なまえとガイはずっと、跡が残ると知っていたって何回も飽きもせず覆っていてくれたのだと今なら素直に受け入れることができる。そうだ、ほんとうは知っていた。ただ、むず痒くて気づかないふりをしていただけで。


「・・・ほんとに、さぁ。もう、オレのこと好きすぎでしょう・・・」




子供のようにあどけない寝顔を眺めながら、今日の任務が終わったら、帰りに来客用の布団を2つ買おうと決めた。物も色数も少ないオレの部屋に、似合わない彩りが増える様を想像して勝手に笑みが零れる。人に、もっと言うと大切な人に何かを贈る気持ちというのはこんなものなのか。心地よいけど照れ臭い、けれど妥協はしたくない。それと少しの不安と、脳裏に浮かぶ笑顔が揺れる。

「ガイは、緑だろうなぁ。なまえは・・・ピンク、って柄でも無いね。まぁでもふたりともとりあえず、ビビッドにしときゃ文句無いでしょ」

時計を見ると午前4時。まだ日は出ていないけれど、地平線のあたりから薄明かりが漏れているのが窓から見える。流れ込んできた空気の温かさに目を細めた。ああ、覚えがある。きっと今日は夏日だろう。

(2015.05.14)

-meteo-