今夜もこの世界中、ナナメに見渡すふりをして


誰とも知らない金持ちの、巨大なビルのてっぺんで缶コーヒーでも飲むのが好きだった。まばゆく光るネオンを見つめていると、やっとぼうっとすることが出来たからだ。何かを考えているようで何も考えていない白い靄がかかったような時間は俺にとって貴重だった。他人のことはわからないが、俺の脳みそはいつだってキリキリと働いていて、俺はとてもそれが好ましくて誇りだがたまには嫌になるときもある。劣悪なコーヒーの味と、体の芯まで冷えるビル風と、深夜まで働く労働者によるけばけばしいネオンはうまく脳をぼかしてくれるらしい。

なあんて、膝に片肘をついて思っていたのだけれど。

「なに、黄昏てるのルパンさん」
「あら・・・・・久しぶり?」

いつの間にか横にはリツがいて、ついでに宅配ピザの箱なんて持っていた。俺とおんなじ様にあぐらをかいて座り込んで、ピザのふたを嬉しそうに開く。コーラの缶を押し付けられたので素直にプシュッと音をたてて開けると、泡が手のひらを汚した。どうやらずいぶん派手に動きながら屋上まで登ってきたらしい。横のリツは自分のコーラも泡だらけなのにやけに嬉しそうで、少々面をくらってしまう。

「ピザ、冷めちゃうよ」
「俺にもくれるの?さーんきゅう」

リツは正直のところ、よくわからない存在だ。仲間というわけでもないし、もちろん敵ではない裏の世界の住人だけれどこんなに無邪気だし、特に力の無さそうなふつうの女で、でもこんなところまで登ってきて俺のこと見つけているし、他の女の子にするみたいに扱ってもケタケタと笑っているし、

「いいね、こういうとこ。頭ぼうっとして」

ルパンさんはそう思わない?って聞いてくる。うん、少しだけ、のぼせてきたかもしれない。


(2013.05.08) image song/ガールフレンド

-meteo-