重いまぶたを持ち上げると、目に付きささるようなパソコンのディスプレイの強い光。カタカタとキーボードが軽い音をたてるのを聞きながら、ソファで寝たせいで所々痛む体を起こす。起きていたのはルパンひとりだった。次元は向かいのソファで、五右ェ門は胡座をかいて斬鉄剣を抱えて壁に背を預けて眠っている。そうだった、どういう流れでかは定かではないが、4人で酒盛りをしたんだった。

「ああ、起きたの?まだ3時だぜ、寝ておきなよ」
「・・・ん、あたま、いたい」
「結構飲んでたもんねぇ、ダイジョウブ?」

部屋の明かりはついていない、ディスプレイだけが白く浮かび上がるこの部屋に、やけに明るいルパンの声が響く。目線は一度たりともこちらには向かなかった。濁っているのか、それとも澄んでいるのかもよく分からない曖昧な瞳は瞬きもせずにパソコンの方に向いている。何が起こったわけでもないのに、なにかが怖いと感じて寒さが身体を襲った。反射的に自身を抱きしめて腕をさする。眠気はとっくに去っていた。

「ルパンは寝てないの?」
「うん、ちょーっと、ね」

と、その時ルパンの携帯のバイブ音が机を揺らした。電話なのか1分ほどは鳴り続けているというのにルパンはそれに見向きもしない。気付いていないかのようにキーボードを叩きつづけている。バイブは一度切れてまた鳴りだした。

「・・・・・ルパン?」

控え目に、囁くように呼びかけると、なんだい?といつも通り明るい声が返ってくるから、わたしはどうしたらいいかわからなくなってしまう。もしかしたら本当は、このまま知らないふりをして寝てしまうのがいいのかもしれないのかもしれないけれど、気になって仕方ないわたしは口を開いてしまっていた。

「どうして電話、でないの?」
「・・・かけてきたのが、不二子だからかな」
「・・・どうして、」

くるりと椅子を回転させて、こちらを向くルパンの顔は、ディスプレイの強すぎる逆光でよく見えなかった。肩肘を着いて、遠くを見つめるルパンは相変わらずわたしを視界に入れようとはしない。


「本当に不二子が会いたいときにはね、会ってあげないって決めてるの」


ぞわりとするくらいに温度のない声に、体が動かなくなってしまった。息の仕方さえも忘れそうになりながら目を閉じるとおやすみ、と言ってルパンのジャケットがわたしの体に掛けられる。煙草の匂いがするジャケットに顔をうずめてもう一度きつく目を閉じた。早く寝てしまえと心の中で繰り返す。もう何も考えたくなかった。








(はやく忘れてしまえるようにと)

(2012.04.09)

-meteo-