彼女はいつも唐突にいなくなるからたちが悪い。沈黙を知らない、騒がしい左側がやけに静かになったと思えばこれだ。スネイプはため息をついた。吐く息を白く漂わせながら、ホグワーツ生で溢れ返すホグズミードのメインストリートを見回すも彼女らしい姿はない。どこをどうさがしたらいいかも見当がつかなかった。そもそもホグズミードには縁のない週末を3年ほど続けていたのだ。今日みたいに寒い日は、いや暖かくともだが、自分の部屋で本を読んでいるのが当たり前で、それを変えようとも思っていなかったというのに。こうしているということは、まぁ、なまえによるところなのだけれど、こそばゆさと悔しさが相まってなんというか、認めたくはない。端的に言ってしまえば恥ずかしい。
ふいに勢いを増した強い向かい風に、反射的にスリザリンカラーのマフラーに首をうずめて気付いた。確か彼女は今日マフラーをしていなかった。冷えるから巻いていけ、と何度もいったのに早く行こうとせかすばかりだったのを思い出す。もう日も傾きかけているしますます寒くなるに違いない。風邪を引かれるとやっかいだからな、と自分にいいきかせてスネイプは小走りになった。本格的になまえを探さなくては、と手当り次第に店に入ろうと決めて体の向きを変えたそのとき、肩に手が置かれた。訝しげに後ろを振り返ればにこにこといった効果音でもつきそうな笑みを貼り付けたルーピンがいた。
「・・・なんだ、貴様か」
「どうしたの?あ、なまえ探してるの?」
「もしかして、あいつを見たのか?どうなんだ早く答えろ」
ルーピンの持つハニーデュークスのチョコだらけの袋に気づいて、自分でもわかるくらい早口でまくしたてた。考えただけでも胸焼けがする。こいつの舌は壊れてるとしか思えない。
「そんな焦らないでよー、えーっとね、」
「うるさいいいから早く言え、どこだ」
「あ、そうだ隣の通りで見たよ確か」
お礼の言葉もそこそこに、朗らかなスネイプもチョコ食べる?と言うルーピンに背を向けて走り出す。ホグワーツに帰ろうとする人の波に逆らって、あちらこちらを見渡す。もうすでにここにはいないのだろうか、いや既に先にホグワーツに戻ったのか、?
「あ、セブルスいたー!」
「、は、?」
腕をぐいと引かれたと思ったら次の瞬間、スネイプの頬に温かい何かが当たる。そして聞き慣れた彼女の笑い声。
「おまえ、どこいって、」
「セブルス鼻あかいー、大丈夫?」
「僕が、どれだけ探したと思って、!」
「はいこれ!食べながら帰ろう?新作の味なんだよー」
頬に当てられたものはよく見れば、最近流行っているらしい食べ歩きのファストフードだった。
「・・・それを買いに行ってたのか」
「うん、だってセブルスこういうの好きでしょう?」
当然のように言い放って、ゆるりと目尻を下げて笑う。思わず息が詰まった。どうしてそんな風にいれるんだろう、と考える間もなく口に控えめな甘さが口に広がる。なまえがにやにやとした顔でこちらを見上げていた。
「おいしい?」
「・・・不味くはないな」
それセブルスのおいしいだもんねー、よかった!と満足そうななまえを見てスネイプは眉間に深く皺を刻んだ。さっき僕に鼻が赤いなんて言ったけれど、それはなまえも同じだ。そのうえ、こいつは僕と違ってマフラーもしていな、
「おい、」
「え?やっぱおいしくなかった?」
「違う!これはなんだ」
なまえの首元にいつのまにか巻かれていた、騒がしい真紅と黄色のマフラーをひっぱる。蛙の潰れたようななまえのうめき声があがった。
「ぎ、ギブギブ!セブルスさんギブ!」
「・・・悪い、ちょっと面白かった」
「うわー、さすがスリザリン」
「お前もだろ?・・・で、誰のだこれは」
「え?リーマスだけど」
「・・・・・」
「え、なに?」
ハッと自我を取り戻したときには既に、ルーピンのマフラーを剥ぎ取って自分のそれをなまえの首にぐるぐる巻きにしてしまっていた。不思議そうになまえがもしかしてセブルスはグリフィンドールに憧れてたの?だとか思わず頭をはたきたくなる勘違いをしているが、訂正できるほどこちらも出来ていなかった。今まさに、どうにかして顔中に集まってくる血の気をなんとか元に戻そうと必死なのだ。
暖 冬
(2012.02.02)
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