布団からいつのまにかはみ出した左足の肌寒さで目を覚ました。わたしの腕に収まるイーブイは深く寝息を立てている。イーブイを起こさないようにもぞもぞと動いて手探りでポケギアを探して、時刻を確認する。思ったとおり、まだ深夜だった。明日、というか今日にはこのポケモンセンターを出て、またしばらく野宿が続くから朝までしっかり寝るのが正しいのは十分わかっていたのだけれど、それでもどうしてももう一度眠る気になれなくてベッドからそっと抜け出す。野宿ではなく久しぶりのポケモンセンターにぐっすり眠っているサトシ達の寝顔をみて音を立てないよう静かに外に出た。

「さっむい・・・上着もってくればよかったかな・・・」

むきだしの腕をさすりながら近くにあった公園のベンチに座る。山の中腹にあるこの街は静かで空気が澄んでいて、星がよく見えた。都会よりも近くにあるような気もする。あれとあれを結べばなんていう星座で、そこの星が確か一等星で、名前はなんていっただろう。幼いときの記憶をたどりながら、首が痛くなるのもかまわず夢中で夜空を見上げていた。

「ほら、寒いだろう?」
「・・・あ、タケシ」

低く落ち着いた声が頭上から落ちてきて、振り向くと同時にわたしの肩に、着慣れたパーカーをかけられた。袖を通し終わると、待っていたかのように淀みなくホットミルクティーの缶を渡された。受け取ろうと手を伸ばすとすかさず火傷するなよ、と言われる。もう何年も旅をしているのに、この過保護さだけは変わらない。

「あ、ありがとう。起こしちゃった?」
「いや、俺もあんまり眠れなかったから」

サトシ達はよく寝てて羨ましいな、とタケシは笑うけどわたしは申し訳なく思った。野宿をするときにご飯だったり洗濯を主として行うのはタケシだ。わたしも手伝ったりするけれど、どうしたって一番負担がかかっているのはタケシだ。

「さっき、星見てたのか?」
「あー、うん。あの三角形になってる奴とか名前なんだったかなあって」
「何だったっけな、懐かしいな。昔、弟達にせがまれて覚えたんだけどなぁ」

それからいくつかの星座をあーでもないこうでもないとふたりで言い合った後、そろそろ戻ろうかとタケシがベンチから腰を上げたのでわたしもそれに続く。さっきの会話はポケモンセンターに戻る間も続いていて、少し間抜けだねなんて笑いながら二人で空を見ながら話していた。

「あ、今日は三日月だったんだな」
「・・・わたしさ、小さいときね、夜が怖かったんだけど、三日月の日は怖くなかったの」
「うん、なんとなく分かるな俺も」
「・・・ほんと?」
「うん、三日月って空が笑ってるみたいに見えるだろ?」

優しく喉をふるわせるわたしの大好きな笑い方。夜空から目線を落とせば、月に照らされたタケシの顔も優しくて泣きたくなった。俯いてきつく目を閉じる。見なければよかったと少し思ってしまった。だって、わたしはこのひとが好きで仕方ない。自然に繋がれた左手が熱い。永遠に続けばいいなんて思ってしまった。

眩暈がするんです

(2011.09.11)image song/ひみつ

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