※七巻捏造

朝日の眩しさで目覚めることを幸せだなんて思うようになったのはつい最近のことだ。窓を開けて乾いた空気を吸い込んで、湖を眺める。湖面に光る朝日が眩しくて、目を細めるたびに戦いは終わったのだなぁ、と思う。ヴォルデモートはもういないのだ。

「いつまで寝ているつもりだ、なまえ」
「あ、先生おはよう」
「何がおはようだ、もう10時だ」

動いて喋る、生きている先生を見るたびにうれしくて泣きそうになる。こうやって軽口を叩けることの幸せ。あの日血の海に倒れる先生をわたしが見つけることができなかったら今頃はこの部屋にひとりでいたのだ、多分膝を抱えていつまでも自分を責め続けているんだろう。リアルすぎるほど思い描けるから少し笑ってしまう。わたしはこの人がどうしようもないくらい好きで仕方がない。

「顔を洗ってこい、やることならいくらでもある」
「今日も片付けですか」
「始業式までに片付けんと校長殿がうるさいからな」

先生は来年度から魔法薬学の教授に戻り、無事に卒業したわたしはその助手になる。戦いであちこち散乱したり壊れたりしたホグワーツを戻すのがとりあえずの今のわたしたちの仕事だ。言われたとおり顔を洗って着替えて、先に行っていると言われて薬品庫に向かう。

「うわぁ、結構割れてますねぇ」
「さっさと片付けて調合しなおさなければ」

しばらくの間、先生は割れた薬品のチェックを、わたしは床に散乱した本を杖を振って本棚にひょいひょいとばしていた。たまに順番が違うと怒られながら作業すること数時間。大広間に行くか、という一言がやっと出て、今わたしたちは廊下を並んで歩いている。

「ねぇ、先生」
「なんだ」

休暇中のホグワーツには当たり前だけれど全然人影がない。今はわたしと先生の声と足音が響くだけだ。

「休暇の間、少しでいいからどこか出かけましょうよ」
「・・・どこかってどこだ」
「えーと、うん。そうだなぁ、水族館とか?海?」
「海は嫌だ」
「あー、先生似合わなさそうですね」
「・・・・・」
「く、クディッチ見に行くのも楽しそうですよね。先生見に行ったことあります?プロチームのやつ」
「ない。しかし校内のものだけで十分だ」
「あれはあれで白熱しますもんね・・・あ、外国とかどうでしょう」
「外国、か」
「フランスとか、イタリアとか〜オーストリアとかもいいかも、」

「なまえ、」

先生に呼び止められて、夢中になってしまっていたことに気づく。
視界に先生はいない。慌てて振り向くといつも通り真っ黒の先生がこちらを見下ろしていた、と思った瞬間わたしの頭に先生の手が乗せられる。

「せ、先生?」
「そんなにあせらなくてもいいだろう」
「・・・・・・はぁい」
「少しづつだが全部行けばいい。これから時間はたくさんあるのだからな」

怒られるのかと思って少し身構えていたのだが、振ってきたのは存外優しい声で、驚いて顔を上げると声と同じで優しい(といってもいつもと比べて、だが)表情をしている先生と目が合った。どうしていいか分からずとりあえず頷くと、いい子だと先生は言う。その声で耳元でそんなこと言わないでください、という気力はなかった。

「・・・そうだな、今年は日本がいいだろうな」
「え?」
「故郷だろう。君の親に挨拶もせねばなるまい」



     



(どこへでも貴方といれば)


(2011.05.05)image song/ねぇ

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