※いまやってる新シリーズの1話ネタ/ネタバレになる恐れがあるので注意




イタリアに拠点を移してここしばらくアジトでルパンと次元の姿を見ないなと思っていたら、先週ルパンが帰ってくるなり踊りだして唐突に「俺もそろそろ身を固めようと思ってさ」なんて言い始めた。まさに青天の霹靂、というやつ。そのうえ呆気にとられるわたしと五右エ門をよそに、ルパンが「つきましてはこちらをどうぞ〜」なんてうたいながら招待状というやつを渡してくるという追い打ちまで抜かりない。多分わたし、それから丸2日間ぐらいは開いた口が塞がってなかったと思う。

「ていうか・・・ちょ、超美人だね・・・」

ファッション雑誌やゴシップ記事を見たときもそう思ったけれど間近に見るとなにしろオーラがものすごい、と小市民っぽいことを考える。

彼女がルパンのお嫁さん、だなんて。

あの衝撃からもうしばらく時間は立ったはずなのに、わたしは未だ目の前の光景が信じられないでいた。少し離れたテーブルで食事をしている、お揃いの銀がキラリと指に光る本日の主役たちを眺めながらため息とも感嘆とも分からない息を吐き出す
。と、すぐに次元に脇腹を小突かれた。「ん、」という無愛想な声につられて目線を自分たちのテーブルに戻す。それだけで、すぐに次元の言いたいことは分かってしまった。

「ふ、不二子ちゃんのほうがキレーだけど!」
「・・・なまえ」
「は、はひっ」 
「そういう当たり前のことは、言わなくていいの」

・・・いつもよりちょっと声が低いのは、きっと気のせいだ。そう言い聞かせながらできるだけ子どもらしく「はーい」と返事をする。めんどくせぇ、とわたしにしか聞こえないくらいの声量でぼやく隣のガンマンを小突き返しながら。こういうときにいつも実感するのだけど、ファミリーの最年少というこのポジションはある意味楽で、けれど同時にちょっと大変だ。それぞれ物思う大人たちの代わりに、わたしはその場にふさわしい幼稚さで並べられた三ツ星シェフ渾身のお肉に目を輝かせる。それで取れる調和も、あるにはあるのだ。

「でもさー、わたし驚いた」
「某もだ。あのルパンが、しかもあんなご婦人と結婚など・・・」
「あ、まぁそれもなんだけど」
「じゃぁなんだってんだ?」

「いやぁ、泥棒って結婚できるんだなって思って・・・」

それもこんな正しい手順で、しかも過不足なく。ルパンたちに拾われてからというもの、わたしにとって結婚式とは間違っても自分に起こりうるものではなく、派手にぶちこわすものでしかなかった。美しくて不運な花嫁を、鮮やかに盗み出してあげる場所。
そしてもちろん誰かの結婚式に出るというのも想像していてなかった。改めて自分の身体を見下ろして見てなんだか落ち着かない気持ちになる。変装ではない、解かなくていいドレスアップ。不二子ちゃんのセンスや技術に不安はないけれど、それに自分がふさわしいかはまた別の問題だ。

「なまえったら、そんなこと思ってたの?心配しなくたって大丈夫なのに」
「へ?」
「隣のヒゲ、見てみなさいよ」
「うむ」

本当にきれいに笑う不二子ちゃん(こういうとき、このひとに敵う女性なんていやしないだといつもハッとする)と、しきりに頷く五右エ門に促されて次元のほうを見遣ると向こうのテーブルを見つめながらぶつぶつ呟いている。

「・・・あーいうドレスはダメだな。露出が多すぎる」
「あの、次元?」
「・・・しかしやっぱ、白ってのはいいな。きっとお前に似合うだろうぜ」

わたしの声に気付いてこちらに視線を移した次元の、帽子からのぞく瞳があんまりにも――そう、これは慈しむ表情というやつ、をしているものだからわたしは胸がいっぱいになってしまう。頬に集まる熱と、わたしに寄せられるふたりの視線からどうにか逃れたくて、慌ててわたしは口を開く。

「その・・・じ、次元は白、似合わなそうだけどね!や、わかんないけど、」
「じゃあ試してみるか」

可笑しそうに喉を震わせてから、次元がわたしの肩を引き寄せて額に唇を当てる。勝手にあふれ出てきたあたたかい滴でぼやける視界のなかで、けれど少し先の未来ははっきり見ることができた。似合わなくたって似合ってたって、わたしたちはきっと幸福のどまんなかにいる。

(2015.10.03) 耐え切れずやってしまった

-meteo-