(かわいくて〜と同設定/しぬほどパラレル)




一週間ほど前、現世になまえとギンを向かわせてから何やら様子がおかしい。仕事はちゃんとやって来たようだし、報告書もしっかり提出されているのでどうやら仕事関係ではないらしい。時折、自分の視界の端でひそひそと耳打ち話をしているのには気付いていた。ギンはいつも通り飄々としていたし、なまえはしかめっ面をしたり手を叩いて喜んだり、頭を掻いて恥ずかしがったりと忙しないので結局よくわからない。何より気になるのは時折話の最中に、ふたりがこちらに視線を向けてくることだった。

「っちゅーことなんやけど、惣右介」
「さぁ、僕にもさっぱり」

分かりません、と腹立たしい笑顔を貼り付けて答えた惣右介を睨みつける。嘘をつくならつくで少しは演技しろと言いたい。明らかに惣右介は分かっている。どうやら俺だけが除け者らしい。全然、面白くない。さっきチビふたりに尋ねても同じような反応をされたから余計に、だ。なまえにしんちゃんはこっち来ちゃだめ!とまで言われてしまった。




「ああああー!けったくそ悪!反抗期にしては早すぎやろ!!」
「うるっさいハゲシンジ!鼻からその茶ァ飲ましたろか?!」

「全く、金髪ってのはどうしてこうも五月蝿いのカネ・・・理解に苦しむヨ」

「ちょっと涅サン、ボクまで同じカテゴリに入れないでくださいよ〜」
「妖怪白玉団子に言われたない!!大体お前人に髪の色のこと言えんやろ」
「笑止」

気分転換などしようと思ったのが間違いだった。休憩場所としては最悪の場所だった、と今更ながらに後悔する。まずこの薄暗い技局の雰囲気。ダクトが轟々と鳴りよく分からん機械が蠢いて、いやそんなことよりなんと言っても働いている人が悪い。口汚く言い合うマユリとひよ里、あ、今そこに阿近も加わった。喜助はひとりでブツブツ言いながら険しい顔で試験官を手にしている。除け者にされたようで腹が立ってここに来たのに、誰も俺の話なんて聞いてくれやしない。

はぁ、と溜息を落とす。これならよっぽど自分の隊のほうが居心地が良かった。執務室は日当たりの良い南向きだし、掃除に関しては惣右介がきっちり手綱を握っているのでいつも快適に保たれている。静かすぎでもなく、適度に賑やかでノリのいい隊員達。そしてその真ん中で笑ってたり泣いたり忙しないなまえとギン。そして自分と惣右介。思ったより自分がそこに入れ込んでいることに気付いて苦笑していると。


「あ〜〜!しんちゃん見っーけ!わたしの勝ち!」
「はぁ〜?ボクが先に霊圧見つけたん忘れたん?ボクの勝ちや」

突然現れて、弾丸のように自分に飛びついてくるふたつの黒い塊。一応反射で受け止めるも、俺もひよ里達もあっけにとられていた。そんなのはこのふたりにはお構いなしらしく、今度はぎゅうぎゅうと腕を引っ張られる。バランスを崩しそうになりながら、なんやこれ、と言う気持ちを込めて後ろを振り向いた。説明が欲しかった。

「羨ましいっスねぇ、平子サン」

ヒラヒラ、と手を振る喜助。けれど何がやねん、と聞き返すことは叶わなかった。二人が腕を引いたまま瞬歩を始めたからである。


そうして連れてこられたのはいつもと変わらない自分の部屋の前だった。それなのにふたりは何が嬉しいのか早く早く、としきりに俺を急かす。

「しゃーからなんやねん、どういうこっちゃ」
「いーから!はやく〜!」
「隊長サン!」

「あーもう!分ァった分ァった!」

半ばやけくそで戸を思いっきり開け放つ。そこに広がっていた光景を、俺はきっといつまでも忘れられないだろう。歪な部屋を飾る色紙に書かれた、お誕生日おめでとうという拙い文字。机に並べられた湯気の立つ、不均等な具材の入った4人分のカレー。苺がめちゃくちゃに乗せられた大きなホールケーキ。苦笑しながらそこに立つ惣右介と、大急ぎでキラッキラした帽子を自分たちと俺に被せるふたり。

「しんちゃん、おめでとー!!!」

なまえの声を合図に乾いた音が3つして、俺の目の前が勢い良く色とりどりのテープに彩られた。

「あっ、ねぇ、ギンあれは?」
「ああ、そやったそやった」

何か言葉を発する間もなく、今度は視界が真っ赤に染まった。ほんのり甘い香りが鼻孔をくすぐって、ようやくそれが大きな花束だと分かる。しかし分からないのは、どうして花束なんか、ということ。

「しんちゃん知ってる?きょうはねー、ハハの日なんだよ!」
「は、は?」
「ちょぉまた!それもボクが現世で見つけたんやん!」
「ほぼ同時だったもん!これは!」


「現世では、年に一度母親に感謝の気持ちを込めてカーネーションという花を贈るらしいですよ。それが今年は今日だとか」

チラシのようなものを手にした惣右介が説明を加えてくれたおかげで、ようやくぼんやりとこいつらの言いたいことが見えてくる。じんわりと、胸に広がる安堵と喜び。

「しんちゃんはー、いっつもわたしたちにご飯つくってくれて、おせんたくしてくれておかあさんみたいなのに、たいちょーさんだし、修行つけてくれるし、いっぱい遊んでくれるしかたぐるまもしてくれるでしょう?だから、おかあさんよりすごい!」

言い切って屈託なく笑うなまえに、何も言わないけれど強くしがみついてくるギン。たまらず腕の中に抱き込んだ。苦しいと呻きながらきゃあきゃあはしゃぐふたりには、この顔は見せられない。

「あれ隊長、ふたりがひとり立ちするまで涙は封印、じゃありませんでした?」
「あ、当たり前やろボケぇ」

くつくつと喉を鳴らして笑う惣右介から顔を反らして俺も結局同じようにして笑った。いつかこんなこともあったと、懐かしむ日が来るのだろう。それが寂しくも楽しみでもあるから不思議だ。


「しんちゃん、だいすき!」


ああそうか、これが家族というやつか。

知らない間に知っていたこと

2015 happy birthday and mother's day


-meteo-