冬の何が忌々しいかって、それは布団の冷たさだ。今も眠たくって仕方がないのに、布団に入ればあの無情の冷たさに心地よいまどろみは逃げてしまう。でもこうして寝室を入ったところで立ち尽くしてる間にも、体温はどんどん失われてゆく。ニュースでお姉さんが言っていた、「今年一番の冷え込み」はほんとうらしい。湯たんぽがわりの猫も今日に限って見当たらなかった。
「うう、さむ…」
仕方なく、ほんとうに仕方なく布団に入り、けれど寒くて体を胎児みたいに丸めて体温が全体に行き渡るのを待ちながら、わたしはやっと暗闇に慣れてきた目で隣の布団を見やる。そういえば今日は、珍しくトーシローさんのほうが床に入るのが早かった。寝顔は見えないけれど、寝息は至極穏やかで、寒さなんて微塵も感じていないようだった。
ううくそ、羨ましいな。冬の寒さを小声で呪いながら手と手を擦り合わせていると隣からもぞもぞと動く音がして、それから姿をあらわしたのはわたしが居間で懸命に捜索していたうちの猫だった。こんなところにいたのか!目を丸くするわたしとは対照的に、にゃあんと小さく鳴いた猫は真ん丸い目を細めて、見せつけるように(ぜったい、そう!)あくびをする。
「ず、ずるい…!こっちにきてよう」
布団の庇護からなんとか脱し必死で手を伸ばして湯たんぽを招致にかかろうとしたけれど、こっちのほうが寒いのはばれているらしくとことんつれない。けれどわたしだって死活問題だ。布団を1回出てしまった今、もう成果なしでは帰れない。心も体も冷え切ってしんでしまう。
「さむい、、うう、おねがい…」
けれどわたしの懇願に応えたのは、小さくて柔らかい毛玉のほうじゃなくて、大きい――つまり、トーシローさんのほうだった。曇った呻き声がして、それからゆっくり開いた瞳(いつもより鋭さが無い)に思わず身をすくませたわたしが映る。起こしてしまった、とばつの悪い気持ちで静止していたのだけど、すぐに寒さで身を震わせてしまう。
「……さむくねーの」
「さ、さむいです…」
だから布団に帰ります。そう言おうと思っていたのに。
決して強い力じゃなかったけれど、こんなこと全く想像していなかったので、腕を引かれたわたしは実にあっさりとトーシローさんの布団に転がり込んでしまっていた。目を白黒させているわたしをお構いなしにトーシローさんはわたしを抱え込む。お布団はあったかい、そしてそれじゃない背中の熱――トーシローさんだ、はもっとあったかい。
「足つめてェ」
「え、あ!ごめんなさ!」
「暴れんな。余計寒ィ」
「はい…」
「………」
「あの、トーシローさん…?」
求めていた返事はなくて、その代わりに私が求めてやまなかった我が家のかわいい湯たんぽ、じゃなくて猫、が手渡される。あったかさが増したからか、今度は大人しく丸くなってるのを撫でていたら、わたしまで急に眠くなってきた。…そうだ、あったかいんだから、いいんじゃないかな。わたしも、この子も、トーシローさんも。実に機能的。一石三鳥。それがいちばん。あたたかさに思考が沈みきって考えるのが面倒になったわたしは抵抗することなく重いまぶたを閉じて、ようやく待ちわびた夢の世界に旅立ってゆく。緩く目を細めたトーシローさんに見送られていたなんて、知らないまま。
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