三人の中で一番お酒が強いのは全蔵くんだ。と、いってもわたしも坂田さんも決して弱くはないし飲みたがりなのでその日に飲む量はそんなに変わらない。差が出てくるのは次の日の朝だ。夜通し飲むと次の日が暴力的なほどの快晴になるのはどうしてなんだろう。頭痛も相まって、その朝日にバンパイアよろしく(だいたい床で)苦しんでのたうち回るわたしと坂田さんとは違って全蔵くんだけが元気だ。そして彼の生活の基本方針は意外にも朝ご飯は出来るだけ食べる、だったりする。

「オラお前ら、起きろよもうすぐ9時だぞスッキリ始まってんだぞ」
「なにがスッキリだよバカヤロー。もうテリーはいねーんだよつまりもうここはワンダーランドじゃねーんだよ、いいから寝かせてくれでも頭痛くて寝れねーんだよバカヤロー」
「わたしたち全然スッキリしてないから・・・お願いだから放っておいて・・・あ〜頭痛い〜あとカーテン閉めて死んじゃうから」
「いいから起きろって。飯作ってやるから」
「「・・・食欲無いし」」

「ったく毎回毎回可愛くもねーくせにぐずりやがって・・・お前ら今日昼から何があるんだった?」

全蔵くんの呆れたような声に、わたしたちはついに辛い現実と向き合うはめになる。坂田さんは依頼、わたしも珍しく仕事だ。しかも人に会うやつ。唸るように起きる、と呟いて、ようやく重すぎる体を起こすと手際よくコップを手渡された。程よく冷えた水がぐったりした瀕死の胃に染み渡る。

「どっちからでもいいからとりあえず風呂、入ってこい」

1時間後、シャワーを浴び終えたわたしと坂田さんは並んで食卓に座っていた。髪も乾かすのもそこそこに灰色一色のスエットに身を包んだわたしたちは、風呂上がりのぽかぽかした熱に浮かされながらエンタメニュースに感想を言えるようになるくらいまでには回復してきた。頭痛もようやく治まってきた。

「おいふたりとも、朝飯できたから取りに来い」
「頭痛いから行けなーい」
「ハァ?治まったんじゃねーのかよ!」
「コレ俺分かるけど、動くと再発するタイプの奴だわ」
「うん、それそれ〜坂田さん分かってるわ〜」

「・・・・・」

「あ、スッキリス占いだ」
「えーじゃぁ俺ァ赤」
「じゃぁわたし青。全蔵くんは?」

「・・・・・黄色」

わたしの前にはくし切りにされたオレンジが、坂田さんの前にはしじみのお味噌汁がそれぞれ置かれる。席につかずに一度キッチンに戻った全蔵くんはわたしたちの向かいにほかほかのご飯とお味噌汁、卵焼きにお漬物を並べだした。バランスのとれたその和の朝食にわたしたちの胃袋は途端に活発になる。つまり物凄く、お腹が空いてきた。

「「・・・・・」」

坂田さんと顔を見合わせてからそれと自分の目の前を見比べる。食欲なんて湧かないと思っていたしそう言った。それを踏まえてのメニューに文句は無い、無いはずなんだけど。

「・・・あ?なんだよ」

やっぱりわたしたちもそれがイイ、とごねたわたしと坂田さんのせいで再びキッチンに舞い戻った全蔵くんを待ちながらふたりでオレンジをかじる。みずみずしくて少し酸っぱい果汁が口の中に溢れ出る。とっても爽やかな朝の味。

「あ、俺スッキリス〜」
「わたしまぁまぁスッキリスだ」
「バカにしてたけどコレ結構当たんのな」
「ねー」

テレビからは、「黄色を選んだひとは残念、ガッカリス・・・振り回される日になりそうです」というナレーションが聞こえている。

-meteo-