※某コントパロ


「ね、ねぇ!坂田さん。ちょっとコンビニで買い出し行ってきてよ」

どこからどうみても、普段通りのなんてことない我が家での飲み会だ。大丈夫。そう言い聞かせて口を開いたはずなのに、ちょっとだけ滑り出しが裏返ってしまった。ばか、と言わんばかりの全蔵くんの前髪越しの視線が痛い。

「はあ〜?なんで俺だけ?お前らも行けばいいじゃん」
「全蔵くんはさ、ほら痔だから」
「じゃあせめてナツちゃんも」
「何さ、せめてって」
「だって寒ィし、せめてもの道連れ」

やだよ、俺だってやだよの応酬で話が全然進まない。壁にかかってる時計をちらりと盗み見て、わたしは少し焦る。それを見兼ねた全蔵くんが助け舟を出してくれた。

「ナツに行かせたらどうせロクなもん買ってこねぇし、お前はあれだよ・・・そーいうセンスあるからな」

シラフだったら鳥肌が立ちかねないほどの苦しい言い訳だ。けれど今日は意図的に坂田さんにはたっぷり飲ませてある。やっとのことで坂田さんは満更でも無さそうにソファから立ち上がった。

「じゃあ行ってくるけどよ、俺のセンスでいーんだな」
「なんでもいいけど、わたしスミノフグレープと、スモークタンね」
「俺ストロングゼロレモン、あとイカフライ。イカの形してて、辛くねー奴な」
「そんだけ指定したら俺のセンス関係なくね?!」

まぁまぁと宥めて、どうにか坂田さんを家から出すことに成功した。時刻は11時50分。上々の出来だ。あと10分で坂田さんの誕生日になる。今日のホントの目的は、いわゆるバースデーサプライズというやつなのだ。

「で、準備って何すんだよ」
「抜かりないよ!見て!わたし輪飾り作ったの」
「壁に付けりゃいい訳か。じゃあそれは俺がやってやるよ」

ん、と差し出された手を見てわたしは自分の見落としに気付いてしまった。どっと冷や汗が拭き出る感触。

「あの、貼るやつ、無いかも・・・」
「ハァ?!画鋲は?」
「な、無い・・・」
「じゃあテープ」
「無い・・・」

「じゃあもう仕方ねぇな、お前でいいよ」

坂田さんだけじゃない。彼を飲ますためにわたしたちも酔っ払っているのだ。それは違うと思う、というわたしの抗議なんてなんのその、ほろ酔いの全蔵くんはわたしの体中に輪飾りのレーンを巻きつけてしまう。

「これめでたいかな?!」
「これ以上なくめでてーよ。つーかあれだよ、ケーキがありゃなんとかなるだろ」

なんとか気持ちを切り替えて、冷蔵庫から買っておいたケーキを取り出した。気持ち悪いほど生クリームの乗っかったそれに、全蔵くんがテキパキとロウソクを・・・ロウソク?

「ぜ、全蔵くんってライター持ってる?」
「俺吸わねぇもん。・・・え?」
「あの、わたしんちキッチンIHで、マッチとかも無いし、」
「・・・もしかして、火無ぇの?」

嫌な沈黙が部屋中に漂ってからすぐにガチャ、と玄関が開く音がした。全蔵くんと顔を見合わせて、それから時計を確認する。もう日付変わってるし!

「な、なんか他はねぇのかよ!」
「あ、ある!ちょっと待って、ホラ」
「つーかお前隠れたほうが良くね?」
「えっ、あっ!」

ガチャリと、リビングの扉の開く音。

「なーに盛り上がってんですかァ・・・・って、」

再び沈黙がリビングを支配する。輪飾りを巻いてメタリックな三角帽を被ったわたしと、同じ帽子を被せられてケーキを持つ全蔵くんと、コンビニの袋を抱えた坂田さん。準備が間に合わず床に転がるクラッカーたち。時が止まったような感覚。

「・・・あーそっか。そういや今日俺誕生日だわ」 

「ち、ちがうよ!」
「いや、ちがくねーだろ」
「嫌だー悔しい!やり直したい!!」

その後クラッカーもハッピーバースデーの歌もちぐはぐなタイミングになってしまったし、結局ロウソクの火を吹き消すのもフリだけになってしまったけれど、坂田さんが存外喜んでいたので結果オーライだった・・・ということにしておこう。

2015 Happy Birthday Gintoki Sakata


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