わたしはちょっとした冷凍パスタ信者だ。いやだって最近のは美味しいし、たしかに麺茹でるのより割高かもしれないけど3分ちょっとレンジに突っ込んでおけば出来てしまうのだ。なんてすばらしい文明の賜物だろう。そんなわけで、冷食セールの日はこれはチャンスとばかりに買い込むのが常となっているのだけど。

「アンタまたこんなん買って」
「そんなん言われても、セールするそっちが悪いじゃん」
「嫁入り前の女が毎日毎日冷食とカップ麺ばっかりで」
「うるさいなあ嫁入り後でこれよりマシでしょーが」
「もーアンタは屁理屈ばっかり言って!」

江戸は人情の街らしい。誰に聞いたかは忘れたけれど、小うるさいレジのおばちゃんに説教されるたびにそれを思い出す。ありがたいような、ありがた迷惑のような、照れくさいようなそんな感じ。

「ちょっと銀さんもなんか言ってあげて〜」

おばちゃんの目線を追って振り向くと、ああ?と気だるげに頭を掻く坂田さんがいた。後ろのレジにいたの、全然気付かなかった。

「いいよなァナツちゃんは冷食なんか食えて。うちにはそんな金もねーっつーの」

やさぐれて自嘲気味に笑う坂田さんが手に持っているのは卵のパックだけだった。聞くと最近毎日豆パンと卵かけご飯で飢えをしのいでいるらしい。コレわたしより悪いんじゃないの。万事屋には子供もいるって聞いてるし。

「アラ〜、じゃあこうしたらいいじゃない!」

料理をしないわたしの代わりに坂田さんが作り、お金が払えない坂田さんの代わりにわたしが払う。おばちゃんが提案(ていうかゴリ押し。だって冷食買わしてくれないんだもん)してきたのはつまりこういうことだった。

「坂田さんなんかゴメンネ」
「いやこちらこそゴメンネだわ、家賃むしり取られて死にかけのとこ救われたわ」
「そんなに飢えてたの?」
「いやガキ共からの風当たりが、いやもう風っつーか暴力だけどな」

もう一度スーパーを野菜コーナーから周り、そうしているうちに作りに行くのは面倒だから万事屋で食べればいいということで話はまとまった。レジでおばちゃんの小うるさい説教のアンコールを頂いてやっとスーパーを出ると、すぐに坂田さんがわたしからパンパンの袋を取り上げてしまった。いくらお金を出したとはいえ、なんだか至れり尽くせりの状況にちょっと申し訳なくなってきてしまう。

「あー、なんつーか気にすんなって。って言っても気にするのかもしんねーけどさ」
「う、うわっ」

わたしの気持ちを見透かしたように温かくて大きな手が、わしゃわしゃと髪を撫で回す。弾かれたように見上げると、いつもは死んでいる眼をゆるく眇めて笑う坂田さん。光を浴びてキラキラと銀髪が輝いて揺れる。

「それにレジのババアなんかいっつも心配してたし、そっち気にしてやれよ」
「・・・うん。ありがとー」
「よく出来ましたァ。そーやって言ってりゃいーのよ」

普段くだらないやり取りをしたり、飲んだりしているときは感じないけれど、こういうとき、坂田さんは大人だなあと思う。大人だなあ、というかやっぱり年上なんだなあというか。

「あーお腹減った!万事屋ついたらすぐ作ってね〜」
「言っとくけどナツちゃんも作んだかんな」
「エッ話違うくない?!?」
「どーせ料理しねーんじゃなくて出来ねーんだろ?銀さんが鍛えてやるよ」
「違いますーやれば出来ますー」

自然に繋がれた坂田さんの左手とわたしの右手。子供扱いされてるようで少し照れくさいけれど、思いの外心地良いので家につくまではひとまずこれでいいかと思うことにした。

...

「銀ちゃーん!見て見てナツの大根ジャバラアルよ!!ヘッタクソネ!!」
「か、神楽ちゃん言わなくていーから!ていうか神楽ちゃんのもジャバラじゃん!!!」
「違うネわたしのはアレアル。・・・飾り切り」
「絶対ちがうよね!?」



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