※六股編のはなし

夜中、来客を知らせるチャイムと共にあらわれたのはいやに憔悴した坂田さんといやに機嫌のよさげな全蔵くんだった。

「どしたの、ふたりで揃って来るなんて珍しい」
「・・・なんつーか、泊めてくんね?」
「そりゃあ、もちろんいいけど」

3人で集まったらやることなんて酒盛りしかない。どうせふたりも飲むんだろうと全蔵くん用のビールとわたし用のチューハイ、坂田さん用のいちご牛乳と焼酎を出そうとキッチンに立つと坂田さんは不明瞭な呻き声をあげて苦虫をかみつぶしたような顔をした。まぁ話を聞いてくれ、と言う全蔵くんに促されて手ぶらで食卓に戻る。
聞かされたのは、ウソみたいにバカらしい話だった。忘年会とやらで坂田さんは酒に飲まれ記憶を飛ばし、そして朝ラブホで目が覚めると隣にお登勢さんがいたらしい。しかもどうやらそれだけじゃなくて他にも5人の責任をとらなくちゃいけないとかなんとか。家に帰れない理由は6人と全蔵くんの用意した長屋でスリリングな同棲生活をしているからだと。

「ワオ・・・坂田さんって、なんか、すごいね」
「なんかって何!?オブラートに包まれたって嬉しくねーんだよもうそんなもん唾液ででろんでろんなんだよ」
「エロ同人でもそれはないよね、てかお登勢さんっt」
「やっぱ言わないでェエエエ!」

ソファベッドに倒れこんで身悶える坂田さんを見ていると、馬鹿だなぁ、とちょっとかわいそうになってくる。だって、そんなことあるわけないのに。その証拠に坂田さんが悲壮感を漂わせて事の次第を説明している間、全蔵くんを確かめてみたら口元ずっとヒクヒクしていたし懐からは小型のビデオカメラが覗いていた。

「ナツちゃぁーん、銀さんいちご牛乳飲みたい」
「仕方ないなぁ」
「あーでもナツちゃんとは何も無くてマジで良かった、いやマジで」
「7股はさすがに体持たないもんね〜・・・ハイどーぞ」
「・・・イヤ、まぁそうだけどォ」
「なに、飲まないの?」

コップから注いで持って行ってあげると、坂田さんはゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。夏休みにこどもに麦茶を振舞ってるみたいだ、と思いながらその銀のふわふわに手を伸ばす。コンプレックスに感じているからかいつもはすぐ避けるのに今日は疲れ切ってるからかされるがままになっている。ちょっと気持ちいい。再び突っ伏した坂田さんの髪を好き勝手にかき混ぜる。

「それより白髪のギントキさん、明日の七武海デートどうすんの?・・・あれ、寝てる」
「お、寝たか。・・・いやあそろそろ佳境ってとこだな、明日が楽しみだわ」
「ぜんぞーくんニヤニヤしすぎだよ、バレるよ」
「あれ、お前嘘だって気付いてたの?」
「うん」

夢の中でも苦しめられているのか、軽くうなされている坂田さんに毛布をかけてあげる。もう何日も消えてないであろう隈を撫でるとくすぐったそうに身を捩ったけれど寝息は深いままだ。よほど神経をすり減らしたに違いない。

「なんというかまぁ、かわいそーに」
「じゃぁお前明日のデート見にいかねーの?」
「絶対行く」

それとこれとは別の話だ、と言うと全蔵くんはそうこなくっちゃとニヤッと口を吊り上げて手招きをした。今までにとりだめたものを見せてくれるつもりらしい。これはいい肴になりそうだ。未だうんうん唸る坂田さんに申し訳程度に手を合わせ、冷蔵庫からさっきしまったお酒たちを取り出した。


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