※ マダム夜神編?のはなし

スーパーからの帰り道。なにやら道のど真ん中でわらわらと騒がしいと思ったら、その中心に白い毛玉が見えたのですぐに納得した。坂田さんは相変わらず楽しそうだ。万事屋さんっていうのは坂田さんの天職に違いない。ちょっと段ボールを身に纏ったオジサンとかブリーフ一丁のオッサンみたいなゴリラがいるのが気になるけれど。とにかく何やら大盛り上がりなので道の端によってそのまま通り過ぎようとしたのだが間一髪のところで坂田さんに気付かれてしまった。

「え、なにナツちゃん無視?嘘だよね?カッコよすぎて分かんなかったんだよな?」
「あー、うんうんそうそう」
「・・・銀さんが悪かったから目ェ合わせてくんない、300円あげるから」

今日の坂田さんは珍しくスーツ姿だった。上下、靴まで真っ白でシャツだけが真っ青。思ったまんま、珍しいねと口にすると「今ホストやってんの」と坂田さんは照れくさそうに頭を掻いた。

「ふーん、じゃあ客引き?だっけ、してるんだ」
「そーそー、プラモ狂死郎が適正が見たいとかなんとかってよー向いてるに決まってんだろうよ」

プラモ?と思ったが坂田さんの話が不明瞭なのはいつものことだ。とにかく仕事があるようでよかったし邪魔をするのもなんだ、とその場を去ろうとしたそのときだった。

「・・・いかがですか天使の休息所、高天原のご利用は」

多分坂田さんが出せる精一杯の甘い声が響く。手を取られてぐっと距離を詰められた。本人としては決め顔を本気で作っているんだろうけれど、元々離れきった目と眉毛を無理やり近づけているせいか、悲鳴をあげるように引き攣っている。思わずふはっ、と息を吐いて笑ってしまう。坂田さんはその反応が気に入らなかったようで頬を子供みたいに膨らませた。全然ホストじゃない。

「ちぇっ、つまんねー」
「だって、眉間ピクピクしすぎなんだもん」
「ちょっとぐらい照れてくれてもよくね?こんな銀さん頑張ってんだから、ホラ、褒めてみ?」
「・・・えー」
「えーじゃねんだよ、俺がなんか恥ずかしいみてーになってんじゃねーか早く言え」
「いや坂田さんは恥ずかしいよ」
「却下」
「その却下を却下で」
「その却下の却下を・・・」

テコでも引かない、と坂田さんは決めたようで座り切った目でわたしの両肩を押さえつけて離さない。言うまで帰さない魂胆らしい。

「・・・まあ、今日の坂田さんはカッコいいんじゃないですか」

どうせ何を言ったって憎たらしいドヤ顔が帰ってくると思ったのに、目の前の坂田さんはなぜか顔をこわばらせたまま回れ右をした。せっかく言ってあげたのに、その反応はなんだ。抗議をしようとかと思ったけれど、なぜか頬が熱を持っていることに気付いて思いとどまった。なんなんだこれ、調子が狂うなぁほんと。

...

「銀ちゃんどこ行ってたアルかー作戦はじまるってヨ」
「・・・おー」
「どうしたアル?耳真っ赤にして」
「・・・おー」
「いよいよ気持ち悪いアル。こっち近寄らないで」


-meteo-