うーん、と首を捻る。食券機というのはお金を入れて一定の時間を過ぎると吐き出してしまう。便利な機能だとは思うのだけど、何を食べるか決まってないと焦る。慣れないことをしようとすると余計にだ。
「決まったか?」
あ、うん。思わずそう返事をするとわたしの肩に手を置いた全蔵くんはちらっと目配せをした。後ろに並んでる人がいたのには気付かなかった。慌てて1番近いボタンをえいっと押し、サラリーマン風のおじさんにペコリと頭を下げてそそくさと列に戻る。既に買い終わって、待つ人用の簡素な丸い椅子に座っている坂田さんがわたしの手元をのぞき込んだ。
「なにをそんなに悩んでたんだ?」
「ほらラーメンって、一杯だとお腹いっぱいにならないから」
でも、替え玉するとちょっと多いし。だから、トッピングを足せばいいかと思ったの。そう続けて食券に目を落とす。今日も結局1番シンプルなラーメンにしてしまった。
「なら丁度良かったな」
にいっと口を吊り上げた全蔵くんが懐から取り出したのは、餃子の無料券だった。6個、と書かれたそれに子供のように心を踊らせる。
「わ〜い、餃子餃子」
「やりィ〜ハットリくんたまにはやるじゃん、ニンニン」
「ニンニン〜」
「お前らホント調子だけはいいよな」
こうして餃子は2つにも3つにも分けられるのに、ひとり分のしあわせの量はさして変わらない。これは不思議なことだ。そして、坂田さんと全蔵くんといるようになって気付いたことでもある。
3名様お待たせしました!タオルを頭に巻いたお兄さんに呼ばれ、並んでカウンターに座る。お腹を空かせた私たちの目の前が湯気でいっぱいになった。しあわせって目に見えるようにしたら、こんな感じなのかもしれない、とぼんやりと思う。
「あーやべ、鼻水でてきた」
・・・やっぱり、ちょっと違ったかもしれない。