※ ちょっとした某コントパロ

全蔵くんは普段家に来る前に電話なんてしてこない。というか最近では玄関から入ってくることですら珍しい(大体ベランダから窓を叩いてくる)。そんな全蔵くんが沈んだ声色で「今からお前んち行っていいか?」と電話を掛けてきた。これはどうやら、異常事態といっても差し支えなさそうだ。

その予想通り、あらわれた全蔵くんの顔色は暗かった。顔色、は正直よくわからないので雰囲気だけど。落ち込んでいるからか猫背気味なので多分間違いではない。

「玄関からなんて全蔵くん、久しぶりじゃん」
「・・・そうだったか?」
「うわ、ほんとに今日元気無いね。なんかあったの?」

これ見よがしにため息を吐くのでそう聞くと、全蔵くんは少しだけ嬉しそうに顔をあげた。話を誰かに聞いて欲しくて欲しくてしかたなかったに違いない。全蔵くんはそのまま実はな、とすぐさま本題に入ろうとする。

「あ、ちょっと待って二度手間なっちゃう。もうすぐ坂田さん来るから、来てから話して」
「ハァ?お前何、アイツも呼んだのか?!」
「うん、呼んだ」
「俺今日結構深刻な悩み相談しに来てんだぞ、アイツは無ェだろ」
「えー、いいじゃん」
「よくねェ、アイツが絡むとロクなことになんねぇもん」

必死に抗議する全蔵くんはまだ気付いていない。己の背後に坂田さんが既にいることを。なんというか、とってもグッドなタイミングだ。こういうときに外さないのがきっとこの評価の所以たるところなんだろう。

「オーイ、鍵あきっぱだったぞアブねーな」
「!?」
「あ、坂田さんはやーい」
「イボ痔野郎の面白、いやお悩み相談だろ?そら銀さんもスクーターかっ飛ばしますよ」
「ホラ見ろナツ!!だから言わんこっちゃねぇコイツは他人の不幸という甘い蜜を啜りに来た醜いモンスターなんだよ!!!」

ケツを抑えながら(昔を思い出したらしい)坂田さんを指さして絶叫する全蔵くんを見てわたしと坂田さんは顔を見合わせる。目も口も半月型ににんまりと歪ませて目の前の坂田さんは笑みを浮かべていた。わたしもおんなじ、こんなに悪い顔してるんだ、と思ったらちょっと引くけれど結局口の端はピクピクと引き攣っている。楽しくって仕方ない。

「オイナツてめぇもか!!おもっくそ笑ってんじゃねーか!」
「いやいやそんなことないって、わたしたち真剣に全蔵くんの悩みを聞こうと・・・ねぇ?」
「そうだそうだ。いいから話してみろって」
「もう嫌だ。帰る」
「そう言わずにさぁ〜、それに早くしないと空気やばいから」
「空気やばいって何?!」
「そーだそーだもったいぶってんじゃねぇよ。オーイナツちゃん、俺の顔大丈夫?真顔できてる?」
「いや、全然ダメ。軽く叩いてあげる」
「イテッ!つーかナツちゃんも全然ダメ。お返し」
「痛い!」

「「・・・じゃ、どーぞ」」
「そんなんテンションで来られて言えるかァァァ!!!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
「笑わねーから」

「笑わねーのは大前提なんだよォォ!!!」

結局、溜めるだけ溜めた全蔵くんの「悩み」とはキャバクラのお気に入りの子に本気になってしまったと思ったら店を辞めてしまった、みたいなしょーもない話だった。そしてそのしょーもない、けれど丁度いい全蔵くんの不幸(?)についにわたしたちはいたく満たされ、次いでお酒も進むのだった。

「で、どんなブスなんだよ見せてみろ〜ニンニン」
「ニンニン〜」
「見て驚くぜこの崩れ具合・・・廃墟なんてもんじゃねぇ、ありゃ死に地だ・・・惜しいことをしたぜ」

「・・・あ、これ、」
「・・・X子じゃねーか」


-meteo-