「アタシね、人間じゃないんスよ」

事実は小説より奇なり、という言葉を身を持って知る。相槌を打つ間もなくスラスラと出てくる突拍子もない話。死んだら天国か地獄に行くと教わって生きてきたけれど、どうやらそうじゃなくてソウルソサエティ?という名前のところへ行くらしい。あ、地獄はちゃんと、あるみたいだけど。それで駄菓子屋の店長さんは人間じゃなくて死神なのだといって笑った。死神という職業はなんとかそのソサエティとこちらの世界(店長さんは、ゲンセ?と言っていた)の治安を守るためのものなのだそうだ。

「ここまで、大丈夫っスか?」
「まあ、なんとか」
「質問とかあります?」
「ええと、なんでそれ、わたしに教えてくれるんでしょう」

アララ、と言うくせにさして困った顔も店長さんはしなかった。でも、こんな綺麗な色の髪をして、綺麗な顔をした(まあ、ヒゲがちょっとアレだけどヒゲまで髪の色とおんなじだからいいか)人が駄菓子屋の店長だというより死神と言われたほうがしっくりきた。どうぞ、と三色団子の乗った皿を差しだす指先も、トンと軽く押しただけで人の命を奪えそうなほど綺麗だ。店長さんはほんとうは死神さん。滑らかに上書きを済ます。

「そうだ、死神は年をとるのがこちらの人に比べると格段にゆるやかなんスよ」
「へぇ、じゃあ店長さんは何歳ですか?」
「恥ずかしいからナイショですけど、まあ百年や二百年はくだらないっスね」

わたしから見ると三十半ばくらいなのに。ニヒャクネン、生きてるのかあ。っていったら1800年とかかぁ。まだまだ江戸時代ってところだろうか。なーんて中学の歴史の教科書を思いだす。二百回、誕生日やお正月やクリスマスを迎えてきたのかこの人は。

「大変そうですね、プレゼントとか」
「ヘっ?」
「あ、なんでもないです」

「・・・びっくりしましたか?」
「ですねえ」
「全然してなさそうなんスケド・・・まあいいでしょう」
「うん?」

「このお団子食べると、なまえサンもアタシとおんなじ時間の流れになるんスよぉ」

アタシね、こう見えても死神やってた頃はメチャクチャ優秀な科学者だったんス、といつも通りに笑う店長さん。だけど、目だけは獲物を仕留めた肉食動物ばりに爛々と輝いている。18歳のわたしはこれからニヒャクネン、いやそれよりも長く生き永らえるのだという。ゆっくり、何回も店長さんは繰り返す。刻みつけるみたいに。

「ここまで、大丈夫っスか?」
「ええと、まあ、なんとか」

肩まで伸びるわたしの髪を掬って口付けて、ああ成功だとうっとりして呟く店長さん。科学者なのも本当なんだな、と思う。人を愛するように、それより深く科学を愛しているのが店長さんの温度を通じてわたしに伝わった。

「髪で、成功かどうかわかるんですか?」
「いえいえ、コンパクを見ればわかるんスよ。一目瞭然、アナタは霊子体でありながら器子でも出来ている」

何を言ってるかは分からない。ニヒャクネン。もう一度くちのなかで呟いたけれど誰にも届かずパチリ、と消えていった。




っていう中編をそのうち書きたい。マッドサイエンティスト喜助と楽天的現代っ子のはなし。

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