※一応浦原店長が思い切る話の設定で
※70巻ネタ


今日も今日とてマユリ...さんは、怪しげな機械でリビングを占拠してこちゃこちゃと何かいじくりまわしている。誰がどう見たって、異様な光景だ。けれど機械も本人も存在感が異様だ、と感じたのは家に現れた初日だけで3日も経てばなんとなく馴染み始めてしまったからわたしは自分で自分が恐ろしい。一護の言うわたしの「楽観的受け身体質」は、ソウルソサエティにもきちんと適用されているらしい。そんなこと、ことのはじまりである店長さんのときからそうだったけれど。

「――へえ、娘がいるの?マユリさんに?」
「何か問題でもあるカネ」
「いや、ううんなんも。…へぇ、名前は?」
「…眠七號…いや。ネムだヨ」

最初のほうはほとんど呟きだったので聞き取りづらかったけれど確かにナナゴウ、と聞こえた。変わった名前だと思ったわたしは素直に口に出す。マユリさんの奥さんは大変そうだなとも思ったけれどそっちは口にはしなかった。わたしはこうみえても分別はちゃんとあるのだ。自称で言ってるのがなんだか悲しいけれど。

「...何か失礼なことを考えていただろう」
「げ、ばれた。まあいいや、マユリさんの奥さんって大変だなって思ってたの」
「ハテ?私に妻はいないが」
「あれ?じゃあえーと・・・ごめん、のやつ?」
「違うヨ。ネム・・・眠七號は被造魂魄だ」

それからマユリさんは、(メイクで分かり辛いけれど)手を止めて顔を高揚させて実に生き生きとヒゾウコンパクとやらについて語り始めた。熱烈な自画自賛と、専門的な用語が話のほとんどを占めていたので彼の話を要約させてもらうとつまり、「無から魂を生み出す」技術の粋を集め、七度目にしてようやく生み出されたのがネムちゃんというかけがえのない娘だということらしい。

「そりゃ、気が気じゃないね。帰らなくて大丈夫?」
「・・・何が言いたい?私が数日いないくらいでネムがどうにかなるとでもいいたいのカネ?この私が作ったというのに?」
「ああ、いや。そういうんじゃなくて。えーと、つまり、お父さんもお母さんもマユリさんってことなわけでしょ」
「・・・・・」
「だからやっぱ、普通の親より、倍嬉しいけど倍心配なんじゃないかなって」

反応は、特になかった。目を見開いたまんま一時停止っていう表現がピッタリくるくらい。気味悪いっちゃ悪いのだけれど、これぐらいで怪しんだらきりが無くなってしまうのでわたしは諦めて食べ終えた夕飯の皿を流しに持っていくことにした。シンクに置いて、水に浸けるために蛇口をひねる。

「‥‥‥、‥‥ヨ」
「え?なに?」

ジャーという水の流れる音で何を言っているか聞き取れず聞き返した。いつも聞いてもないのにキンキンとうるさいくせになんなんだ、とわたしはちょっとだけ腹立たしくなる。

「アー、アレだヨ。もし解毒薬が出来なかったから、まぁこの私が解析しているのだからそんなことは無いのだが‥」
「はい?」
「その、なんだ‥‥お前を、ネムの妹ぐらいにはしてやってもいいヨ」
「‥‥えーとそれ、わたしもヒゾー‥あ、無じゃないか‥改造コンパクになるってこと?」
「私はこう見えても女性には優しくてネ。貴様の貧相な顔面や貧相なボディなんかも特別にタダでナオしてやってもいいヨ」

「えー、あーうん、そうね。ありがとう‥‥?」
「イヤイヤ、こんなのは朝飯前だヨ」
「‥‥まぁ、解析できないこと無いんでしょ?」
「当たり前だヨ。私を誰だと思っているのかネ」
「‥‥‥」

おおよぞデリカシーというなものが、欠如したゲテモノ科学者。もっと簡単に言うとやべぇ奴。言わないけど。なぜならわたしには、彼とは違って分別があるからだ。

「‥‥娘さん、反抗期とかまだ来てないの?」
「そんな無駄なものは教えていないヨ」
「な、なるほど〜‥‥」

科学者ってのは理論だのなんだのうるさいくせに、どいつもこいつも(いや、ソウルソサエティのに限ってかもしれないけど)感情や思考の推移がよくわからないから困る。これが1児の父だっていうんだから、娘はきっと大変に違いない。なんだか言い切ったぞ、みたいないつもより2割増で憎たらしい顔をするマユリさんを眺めながらわたしはまだ会ったことのないネムちゃんとやらに少し同情するのだった。


-meteo-