顔に温かい雫が落ちてくる感触に重いまぶたをゆっくり開いた。体の深いところが痛む。視界には知らない天井とそれから。
ーーそうか。思い出した。戦って、負けたんだったな。ここは、パンクハザード。のはずだけど。
「・・・なまえちゃん、なんでこんなとこきちゃったのよ」
「・・・ポートキーで」
「方法じゃなくて」
海に出たがるスモーカーをなだめすかして見張りを頼んでまで、本部に置いてきたはずなのに。
「・・・クザンさんが、勝手にどこかにいったりするから」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら、俺の肩あたりに顔を押し付けてなまえが呻く。その声は随分枯れていた。俺が横たわっている間、ずっとあの、子守歌に似ている治癒呪文をかけていたに違いない。それでなければ体がこんなに楽なはずはない。傷だけでなく、ボロボロだった服までお構いなしに直してしまうこの魔法を見るたびに、彼女が魔法使いだということを改めて思い知る。
ああでも、体だけじゃないな。負けたっていうのに、なんだか心まで。
本当は。
自分で来ないように仕向けくせに、涙が頬に落ちてきたその瞬間、思い浮かべたのは彼女だった。目を開いたらぐちゃぐちゃの顔したなまえがいてどうしようもなくほっとした。きっと、嬉しかった。不思議だ。存在自体が魔法みたいな、それなのに弱い女の子。
海軍を去ることに、未練はないけれど。
細くてやわらかい腕をゆっくり掴む。想像してぞっとした。この手が、その先に掴む杖が、眩い緑色の光を放つことを強いられる未来。あの赤い男が頂点に立てば、立つのだからきっとそれはそう遠くはない。
「ーーーなまえ、」
「、怒りますよ」
「え?」
「黄猿さんが、言ってました。クザンさん海軍辞めちゃうんでしょう」
「・・・わたしを、置いてっちゃうんですか、」
そんなのわたし、ぜったい嫌ですからね。
思わずため息が漏れた。どうして俺の言おうと思ってたことを、先回りできてしまうんだろう。瞳の強い力で、俺の胸を巣食っていた不安はたちまちねじ伏せられてしまう。
「なあなまえ、−−これからオジサンと、一緒にいてくれる?」
「ばかだなぁ・・・あたりまえでしょう」
その声は、彼女が呪文を唱えているときに似ていた。深くて、まっすぐで優しい。
魔法使いっていうのは全く、すごいな。そう呟くとなまえはわずかに目を見開いたあと、照れくさそうに、そして少し呆れたように笑った。
「魔法じゃないです」
「?」
「−−ダンブルドア先生で言うとこの、愛ってやつ、ですね。多分」
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