「あつい!あついっていうか、蒸し暑い」
「そら梅雨やからなァ」
「・・・電車、何分後だっけ」
「あー、15分後やな」
「通りでホームガラガラだと思った!」

ド平日の真昼間。真子とわたしはみんなに頼まれたものをまとめて買うために近くの大型ショッピングモール的なところに行こうとしている。アジトを出ていくときには怪しげな曇りだったのが、案の定最寄りの駅に着いた今は雨に降られている。雨粒がホームの屋根の拡張された部分に当たって鈍い音を響かせていた。

「この路線昼間は全然来ォへんからな、しゃーないやろ」
「あーつーいーなーァーしーんーじー」
「なんやねん気色悪いでその喋り方」

わたしたちのいうところの、だけど最近は、本当に技術の発展が目覚ましい。今や電車のホームにはアイスなんかの自販機も置くようになって、それは電子マネー、というやつでも買える。飲料の自販機も液晶パネルを押して買うタイプなんかもチラホラ目にするようになった。

「アーイースーたーべーたーいー」
「・・・目ざといやっちゃなァ」

よー見つけたなホームの端っこやんけ、とぶつくさ言いながらも自販機まで着いてきてくれる真子が好きだなあ、と思う。私の好みの味を完全に把握してるところも。これやろ、と当たり前のように指差すのに頷くとピピッ、と軽快な音がしてアイスが落ちてきた。真子は最近自分の携帯をモバイルSuicaにして喜んでいる。新しいもの好きなのだ。

「えへへ、ありがとう」
「向こう着いて昼飯ちゃんと食べれんのかいな」
「うん、だいじょうぶー」

相変わらず誰もいないホーム。わたしはベンチに座り真子は目の前に立って、わたしがアイスを頬張っているのを見つめていた。顔に「朝飯めっちゃ食べてたやんけ」と書いてあるけれど口に出さないので許してあげた。あ、お腹を見るんじゃない。

「なァ、」
「ああ、うん。はい」

そういえばこの味は真子も好きなやつだった。わたしの手元のアイスに遠慮なく(まあ、真子が買ってくれたやつだ)かぶりつく真子の、梅雨にも負けない強靭なストレートの金髪が揺れる。いわゆる恋心、みたいなやつはもう簡単にわたしを揺らしたりしない。けれど代わりに安心と、体温に似た温度をそっと与えてくれる。わたしのアイスの食べ方がへたくそだ、と笑っている真子も、そう思ってたらいいと彼のほうを見上げた。するとフッと影が落ちたと思った瞬間、わたしの頬を真子の唇が掠めた。

「なんや、あれやでアイス付いとったから」
「耳真っ赤にするならやんなきゃいいのに」



(2015.04.20再録)

-meteo-