「ご、ごめーんみんな、先アジト戻ってて・・・」

今日のターゲットは美術展。(至極残念ながら)特にこれといったアクシデントもなく、お目当てであるドデカイ宝石は既に俺の懐にしまいこんである。あとは警察のかく乱をしている我がファミリーの愛娘を拾って帰れば、今日の仕事はあとはあらかた終わりで待っているのはアジトでの酒盛りくらいだろう。そう思っていたときだった。
全員の耳に仕込んだスピーカーから、普段からは考えられないほどの弱々しい声が飛び込んできた。その一瞬で、それまでの仕事後特有の、賑やかな空気はすぐに鳴りを潜めてしまう。逃走用のヘリの中、思わず3人と顔を見合わせた。おいおいどういうこった。この先のビルの屋上で彼女を拾う手はずじゃなかったのか。俺が口を開く前に、不二子は悲鳴を上げ、次元は素早く機体を急旋回させる。その勢いに俺は窓に叩き付けられ情けない呻き声をあげた。

「ちょっと、なにがあったのよ?!」
「あと2分でつくからそこ動くんじゃねぇぞ!」

二人の慌てた声と、五右ェ門が忙しなく斬鉄剣を抜き差しする音が狭い空間に響く。
「ほんとに何でもないの」と狼狽える彼女の声なんて誰も聞いちゃいない。俺はなにか嫌な予感がして、思わず懐の石を握りしめた。


見つけたのは路地裏で、力なくへたり込んでいるはいるが幸い目立った外傷はなかった。腰が抜けてしまっただけらしい。けれど不二子は胸の圧で彼女を押し殺さんばかりにして抱きしめ、次元と五右ェ門は一見厳しい顔をしてはいるものの、目だけはどう見ても安堵に滲ませている。それはもちろん俺も同じだ、けれど。

「で、どうしたのだ」
「いや、あの〜〜、恥ずかしいからあんまし言いたくないんだけれど」
「こんだけ心配させといてそんなの許さないわよ!」
「不二子ちゃんいたい!」
「いいから早く言え。おいルパン、お前も何か言ってやったらどうなんだ」

どいつもこいつも、本当に分かっていないのだろうか。彼女の蒸気した頬にどこか遠くを見るようなうるんだ瞳。あらまぁ、耳まで赤くしちゃって。

「もーしかして、恋しちゃった、ってやつ?」
「!!?」

ぼそりと呟いた俺の言葉に、全員が過剰に反応する。真ん中のあどけない少女は目を見開いてフリーズ。反対にその周りの酸いも甘いも噛み分けたはずの大人たちは、勢いよく騒ぎ始めた。

「誰にやられたのよ!」
「誰、だったんだろあれ・・・」
「警察か?それとも同業者か?」
「わ、わかんない・・・けどかっこよかったなぁ」
「どっちでも絶対ダメよ!特に泥棒なんてロクな奴いないわよ」
「不二子、それはぶーめらんという奴だ」
「なんにせよ俺より強くないと許さねぇけどな」

「あの、みんな!とりあえず逃げないと、・・・だよねルパン?」

どんどんボリュームを増す喧騒のまんなかで、助けを求めて視線を送る少女に俺はにっこりとほほ笑んでやる。

「はいはいストーップ!お前ら早くヘリに乗れ!」
「よかった、ルパ、」

彼女には悪いが、俺も含めて全員まだまだ子離れの準備なんてできてやしないのだ。それに泥棒は盗まれるものじゃなくて盗むものだ。大泥棒ならなおさら。

「まだ近くにいるかもしんねーだろーが!こうなりゃ全面戦争よ!」

世界一の大泥棒で賢い俺さまは、自分たちが世間でなんと呼ばれるか知っている。

そう、モンスターペアレントというやつだ。

-meteo-