似たもの同士…?



「名前さんにとって、死ぬ。って、なんですか?」
「…………?どうしたの、急に」
「深い意味は。ただ、少し気になりまして」

少し気になった、にしては些か重たい質問ではないだろうか。そう眉根を寄せはしたものの、納棺師である彼ならば、まぁ、そういう事もあるのだろう。
そう自分を納得させてから、投げかけられたそれを噛み砕く。

死ぬ。
呼吸が止まり、魂が肉体から抜け落ち、人々の記憶から消え失せる事。
どういう意味になるか……?私にとって、死とは。

「平等な義務、かな」
「義務?」
「うん。死にゆく事は、どんな生き物にとっても平等に必ず訪れる、その実必ず達成しなければならないその人自身の責務かな。産まれ落ちる事は何処までいっても受動的だけれど、死は能動的に行えるから素敵だなとは思うよ」

産まれたのなら、死ななければいけない。そう強く思っているからこそ、私は、ここに居るハンター達を見ると何とも言えない気分になってしまう。
もしかしたら、私がまだ生きているからこんな事を言えるだけなのかもしれないけれど。

「……成程。だから、なんですね」
「なにが?」
「義務だ、と。そう答える方は、少ないですが今までもいらっしゃいました。けれど僕は、能動的と付ける方を知りません。貴女は普段から、その、死ぬ事を恐れていないように、感じていたので」
「恐れていない、訳ではないんだけど」

近いけれど少し遠い。まぁ間違ってはいないから良いかな、と彼の目を見れば、そこには冬の曇り空のような、静かな色が浮かんでいた。途端に、そのまま肯定する事も躊躇われてしまう。仕方なくカップを傾けながら少しだけ考えこむ。先程まで、真面目に反省会をしていた筈なのに。

「死にたい訳ではないよ。生に執着していないだけ」
「どうでもいい、と?」
「うぅん……そう、なのかな。いや……」

そこまで投げやりでもない気がする。多分、きっと。恐らく。

「単純に、興味本位なだけ、なのかもしれない」
「興味、本位」
「あまり、思い通りにならない人生だったから。必ず訪れる終焉なら、せめて自分の理想通りにしたい、だけ。かな」
「……面白いですね。けれど、それ、僕以外には言わない方がいいですよ。特にハンターの方々には」
「こんな話、イソップ以外としないよ」

そんな返しで頬を染める彼の方が面白い。何も照れるようなことは無かったと思うのだけれど。

「……理想を追い求めているのなら、僕が、お手伝い出来るかもしれません」
「は?」
「死に方ならば、人並み以上に見てきたと自負しています。プレゼン、出来ますよ」
「いや、そんな。急に意気込みを語られても」
「それに、もし理想の死に方を見つけても、一人ではどうにもならない。かもしれないじゃないですか。名前さん、僕なら、お手伝い、出来ますよ」
「えっ近い、近いよイソップ。一回落ち着いて」

困った、私の発言の何かが琴線に触れたらしい。彼にしては珍しい声の大きさで、テーブルに置いたままだった手を両手で包まれる。テーブルを挟んでいなければ、息がかかりそうな距離まで密着されてそうな勢いだ。社交恐怖はどこにいったんだ。

「大丈夫です、同意がないまま殺しはしません!」
「え?えっと……君こそ、そういう事、他で言わない方がいいよ……」
「平気です。貴女にしか言いません」

あっ成程。全然そんな雰囲気ではないのに、確かに少し照れてしまう。そんな私の反応を肯定と捉えたのか、彼は決意を新たにすくりと立ち上がった。缶の中のクッキーが揺れて、紅茶が飛び上がり、雫がそのまま落ちていく。

「まずは簡単な質問表を作ります。大まかな方向性を決めて、そこから少しずつ、お互いの意見を擦り合わせましょう」
「いけんの、すりあわせ」
「はい。きっと貴女の最期、なんの憂いもなく、彩ってみせます」

物凄いことを言っている自覚は、なさそうだ。対人経験の少なさが、むしろ功を奏している。ダメだ。こんなに瞳を輝かせている彼を、突っぱねられない。

「……よ、ろしく、お願いします」
「は、はい!こちらこそ、宜しくお願いします!」

いつも静かで、どこか冷たそうで、造り物めいた端正な顔立ちが、嬉しそうに僅かに綻ぶ。普段との落差に胸が高鳴りかけ、慌てて首を振った。
別に私は今すぐ死にたい訳ではないのだ。死にたがりの自殺志願者ではない。そこだけは勘違いしないで欲しいし、

なにより。

私の死に様を考えるような男に、惚れるような、特殊な性癖も持っていない!

2.5

春日狂想