いい子だから泣かないよ
俺の妻が死んだ。俺と、娘を残して。
今まで生きてきて唯一恋愛感情が芽生えた女であり、昔お世話になった先生の一人娘だった女。それが妻の翠(みどり)だった。
昔から病弱で、他の奴の半分生きれれば良い方だと言われ、ほとんど外には出ず、肌は雪のように真っ白だった。子供好きでおっとりした性格で、本当に心から愛していた。
不意に、ちょいちょい、と服のはしを引っ張られる。そちらに目をやると、俺の服を少し握り、俺を見上げる優と目が合った。
「どうした?トイレか?」
「ぱぱ……まま、ねんねするの?」
当たり前だが、まだ5歳の優には何が起こっているのか理解できていない様子で、不安そうに俺を見つめてくる。そんな優を抱き上げ、翠の入った棺桶を見せた。
「優、ママとはしばらくお別れだ。でもさよならじゃねェ、また会える。だから、また会おうなって言ってやれ。そうすれば、ママは安心して寝られる」
「……まま、またあおうね。おやすみなさい」
言い終えると優を強く抱きしめた。そうすると、苦しそうな声を出したため、少し力を緩めてやる。すると、「ぱぱ、」と何か言いたげな顔をした。
「今度はどうした?腹でも減ったか?」
「ううん。あのねぱぱ、優ね、いいこだから泣かないよ。えらい?」
そうして、目に涙を溜めて口元だけ笑って見せた優。俺はこの子を、これから先何があろうとも、必ず護ってみせると改めて誓ったのだった。
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