たった一つの宝物
翠が死んで数ヶ月。
「ぱぱ! あれみて!」
肩車をせがんできた優を肩に乗せ、外に行くと優がぐずったので近くの河原を歩いていると、突然優が俺の髪を引っ張り引き止めた。
(いてェ……)
「どうした?」
「あれみてあれ!」
「あー……今日は満月か」
「あのおほしさまはね、優のなんだよー!」
「誰がそんなこと言ったんだー?」
さっきの仕返しにと脇をくすぐってやると、笑い声を出しながら身をよじって暴れる。もちろん肩車のままだから、優が暴れるたびに顔に足がガンガン当たるが、優の足だ。痛くもかゆくもねェ。
「あのね、ずっとまえにままが言ったの」
『ママはね、体が悪いから長く生きられないかもしれないの。でも大丈夫。……優、あのお星様をあなたにあげる。ママがいなくなって寂しくなったら、あのお星様に願い事をしてごらん。ママ、すぐに会いに行ってあげるから』
「……って!」
月と星の違いもわからねェ奴だったのか……アイツは。まあそこも可愛いわけだが。
確かに月も星だが、その星とあの星は違うだろ。だが、アイツらしい。
「あのおほしさまは優のたからものなの!」
「ふっ……そうか、よかったな」
「ぱぱにもおほしさまはあげようか?」
「……パパもあの星がいいなァ」
「だめ! あれは優がままにもらったの! だからぱぱにはあげない!」
「……」
内心、めちゃくちゃ傷ついた。そりゃあもう地面にめり込むくらいに。
が、優の可愛さに免じて許してやるか。
帰り道、優が作った(らしい)パパの歌とやらを聞きながらそんなことを思った。
「ぱーぱはね、真ちゃんってゆーんだほーんとはね、だけどぱぱだからぱーぱってよぶんだよ、だいすきな、ぱぱ」
(ホント可愛いなコイツ。絶対ェ嫁にはやらねェぞ)
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