日常の7割はこれ/BBB スティーブン
“HLに新たなドーナツショップが誕生!”
それが目の前に飛び込んできたのはライブラへと向かう途中だった。直前まで忙しなく動いていたはずの足は急停止。ユウの視線の先にはキラキラと美味しそうなドーナツたち。オープン日なのか今日の日付が画面いっぱい街頭モニターに映し出されている。どうやらライブラの近隣に出来たらしい。宣伝が終わったのを確認すると、猛ダッシュでライブラへと向かった。
『ねえみんな!ドーナツだって!』
突然、まるで嵐のようにユウはライブラへと帰ってきた。壊れるのではないかという程軋ませながら勢いよく扉が開け放たれた。この建物も何もせずとも日々老朽化は進んでいるのだから、余計な不可はかけて欲しくない。ユウのその様子にスティーブンはそう願わずにはいられなかった。ライブラの面々はその流れにもうすっかり慣れてしまったようで、またか、と特に気にも留めていない様子だ。レオとツェッドだけはまだまだ慣れないのかいた表情をこちらに向けている。
「やあ、おかえりユウ」
『ただいま、スティーブン!』
「今日も元気そうで何よりだ。ただ、扉が壊れるから全力で開けるのはやめなさい」
『はーい』
本当に分かっているのかゆるゆると気の抜けた返事が目の前から返ってきたことにスティーブンは肩を落とした。
『あ、でね、ドーナツ屋さん出来たんだって!しかもこの近くなの!ねえ行こ!』
「ドーナツ屋?...ああ、あれか」
ここに来る際、人だかりの出来ている店があったことを思い出した。まだ朝だというのに有名なチェーン店なのか既に長蛇の列が出来ており、よくこんな時間から、と呆れて見ていた。まさか行きたいと言い出す者がいるとは思わなかった為、他人事だと眺めていたのだ。
『ねえ!行こう!いいでしょ、スティーブン?』
待ちきれないとばかりに腕を掴むユウに、どう理由をつけて回避するかを考えていた。
「あー、昨日からダイエットを始めたと言っていなかったか?」
『言ってない』
「...すまない、そうだったか。それじゃあ、ドーナツよりサブウェイのサンドイッチはどうだ?今ならトマト増量してもいいぞ」
『いつもしてるけど』
それなら...と次の策を考え始めたところで、完全に不機嫌な表情のユウと目が合った。
『そんなに私とドーナツ食べに行くの嫌?』
「何を言ってるんだ嫌なわけないだろう」
『じゃあさっきから行くのをやめさせようとしてるのはどうして』
逸らされることなく向けられた瞳に勝てるわけもなく、自然と零れたため息の後に理由を告げた。彼女の事だ、二人で並べば大丈夫だとでも言われるのだろうと外出の為にジャケットに手を伸ばす。
『なんだ、私と行くのが嫌なわけじゃないのね。よかった!』
「だから嫌なわけないじゃないか。それで、ドーナツ食べるんだろ?」
『ううん、ドーナツはいいや。代わりにサブウェイに行こう?』
「さっきはあんなにも行きたそうだったのにいいのか?」
『だって無理矢理混んでるとこに行くより、サブウェイ買って二人でゆっくり食べた方が楽しいよ』
ね?、と首を傾ける姿に頷く他無かった。どちらにせよ外出する為、手に掴んだままのジャケットに袖を通し、二人で腕を組みながら部屋を出たのだった。
『ドーナツはまた今度ね』
「諦めてなかったのか...」