ただ、それだけ/伏見弓弦
『聞いてなるちゃん!桃李ちゃんの親衛隊始めたの!』
親衛隊?と聞き返すなるくんの頭上にはハテナマークがいくつも浮かんで見える。肯定の意味を込めて頭を上下に振ると、また妙なものを始めたのねえと笑われてしまった。ひどい。そんな仕草も絵になるところが少し恨めしい。だが、こちらは至って真面目なのだ。向かい合ってくっ付けた机越し、なるちゃんが目の前に広げたお弁当から卵焼きを選び口に運ぶ。美味しい。アイドルと高校生を両立させながら料理まで出来る彼は女子力のかたまりだと思う。
「でも、悠ちゃん」
『なあに?なるちゃん』
「そういうのは弓弦ちゃんが許してくれないんじゃないかしら?」
弓弦くんとは2-B所属のクラスメイトで桃李ちゃんの使用人。言わば執事というものをしている。良く言えば心配性で悪く言ってしまうと過保護。姫宮桃李に近付くと彼に消されるという噂を聞いたときは流石に驚いたが、同時に納得してしまった。それほど、日頃から坊っちゃま坊っちゃまと桃李ちゃんを気に掛けている彼が親衛隊なるものを見逃すわけがない。この話も聞かれていないとは断言できないほどだ。なるちゃんが気にするのも無理はない。
『確かに敵に回したら怖いけど…』
「けど?」
『なんと今回はね!弓弦くんも一緒に親衛隊なの!』
心底驚いたらしいなるちゃんは手から箸を落としていた。床に落ちた箸を代わりに拾って机に置く。その間に復活したのかキラキラとした眼差しで、なんで?どうして?何があったの?と机を乗り越える勢いだ。その姿はまるで恋バナ好きな女子。ひとまず落ち着くように促すと、噂の弓弦くんが教室に入ってきた。キョロキョロと室内を見回しこちらに気づいた彼は、いつにも増して爽やかな笑顔を振りまいている。
「おはようございます白城様、鳴上様」
「おはよう〜弓弦ちゃん」
『おはよう弓弦くん。昼休みにこっちいるの珍しいね〜いつも桃李ちゃんのとこだよね?』
「ええ、今日は早めに切り上げてきたんです。白城の方はどうですか?坊っちゃまの親衛隊は順調でございますか?」
まだ活動できていない旨を伝えると、弓弦くんはニコニコ笑っていた。何故だろう。横に居たなるちゃんも疑問に感じたらしく二人揃って首を傾げた。
『(なんだろう?)』
暫くして予鈴のチャイムが昼休みの終了を告げた。まだお弁当を食べ終わっていないがひとまず、各自机に戻ることとなった。授業が始まり先生が出席を取り始めても、私の頭の中はちょっとした疑問でいっぱいだ。偶然にも弓弦くんと席が隣同士のなるちゃんが、授業中に話を聞いてみると言っていたのであとで結果を教えてもらおう。
「ねぇ、弓弦ちゃん」
「なんでしょうか鳴上様?」
「親衛隊、許してくれるなんて意外だったわ。桃くん関係で弓弦ちゃんが良いって言うだなんて驚いちゃった。…何か裏でもあるの?」
「そんな…裏だなんてそのようなものはありませんよ。ただ、」
「ただ?」
「手元に置いておきたかっただけですから」
目の前のなるちゃんが、箸に引き続き何故ペンを落としたのかという理由を授業終了とともに聞くことになるのだった。