02
『おやっさーん、こっちの確認終わったよ』
「おーし、こっちの装備の確認も終いだ」
いよいよお嬢様の護衛任務の日が迫り、終業後に装備の確認を行っていた。お嬢様本人が来るのは明日だが、隊長であるオルガを始めとした参番組は明後日から地球に向けて火星を出発することとなる。任務を受けてからあまり時間もなかった為、夜の間に必要な装備のメンテナンスを進めていた。
「お疲れさん。シアンもありがとな」
『いいよ、これくらいやるって。にしても地球まで往復五ヶ月くらいだっけ、もつとは思うんだけど』
雪之丞がオルガと向かい合うように腰を下ろしたのを確認すると、二人の中間辺りに座り込んだ。
「ここも静かになるなあ」
参番組が居ないとなるとこれから半年近くはこうして静かな夜のような日々を送るのだろうか。想像してみるとなかなか寂しくはある。
『暫くみんないないのか...』
シアンも来るか、なんて嬉しい言葉ではあるが許可もされていないのに勝手に行くわけにはいかない。
「ま、ご指名の仕事なんだろ?良かったじゃねえか」
「何が良いもんか...いつも通り便利に使われるだけさ」
『オルガ...』
ここに居る子供たちは皆、手術によって阿頼耶識が付けられている。誰も求めたわけではない。それが働く条件となっているからだ。例え苦痛にもがきどれだけ望まなくとも、他にどこにも行き場のない彼らは阿頼耶識という機械を身体に埋め込む以外道はなかった。何人もの子供たちが手術室へと送られ、失敗した者は大変な後遺症を抱えたまま外へと捨てられていく。全員が上手くいく訳では無い、言わば賭けのようなものなのだ。
「俺らはヒゲのおかげですばしっこいのが取り柄のネズミくらいにしか思われてないだろ。ま、これを埋め込むのがここで働く条件だからな」
『それ、私だけがその痛みを知らずにここにいるんだよね...』
手術で死なれたらまた探すのが面倒だとただ一人女という理由で行われなかった。それは良いことなのかもしれないが、今後あの時程女であることにもどかしさを感じることはないだろう。
『男だったらなあ』
「おいおいやめてくれよ、お前が男だったら毎日うるせえじゃねえか」
『何それ、別に私いつも騒がしくないし』
「それくらいにしとけ。まあ、それでもお互い仕事があるだけまだマシか」
そろそろ夜も更けてきた為、まだ話の続いている二人におやすみを告げ一人出てきた。部屋に戻る途中、筋トレを終えた三日月と偶然合流しひっそりとした廊下を歩く。昼間なら邪魔だと言われそうだが夜なら二人で並んで歩いても問題は無い。
『ミカも明日からお嬢様の護衛なんでしょ?』
「ああ...明日からだっけ」
忘れてたのかというツッコミは心の中で留めておいた。
『さっき、地球までの装備とか色々確認し終えたとこなんだ〜メンテナンスもしといた』
「シアンが?」
『うん、おやっさんと一緒にね』
「そうか...シアンのメンテナンスなら安心だ」
三日月の言葉におやっさんのメンテナンスでは安心できないのだろうかと混乱しかけたがそうではないようだ。
「多分シアンが考えてることと俺が考えてることは違う」
『どういうこと?』
「おやっさんのメンテナンスは勿論信頼してるけど、シアンがいるともっとこう...安心する」
三日月とは寝ている部屋が違うのだが、別れ際、寝ている時のような安心感だとだけ告げられた。