02
『まーたミカはそういうこと言って...』
自分の事に無頓着だとは思っていたがもう少し躊躇いというものは無いのだろうか。おやっさんと二人でやれやれと肩を竦めていると声を荒らげたのはクーデリアだった。
「なんで...そんな簡単に...自分の命が大切ではないのですか?!」
その顔はこわばり信じられないとばかりに眉間にはシワが寄っている。三日月の方はその表情にどう思うわけでもなく命は大切に決まっている、と淡々と答えるばかりだ。
「俺の命も皆の命も」
『ミカ...』
「勿論、シアンの命も大切に決まってる」
三日月の大きな瞳がしっかりとこちらを見ている。少しだけ、三日月はいつもボーッとしていて肝心なところを分かっていないと思っていた。だけど今、命は大切。皆だけではなく自分自身の命も。その言葉を聞けただけで安心した。ちゃんと三日月も自分を大切にしているのかもしれないと。
『ありがとミカ。私も同じ気持ちだよ』
「そっか」
三日月からハッキリと答えを聞いたクーデリアは、何かを言いたげに口を開いていたものの言葉の続きは出なかったようだ。
「どうだ?」
早速、乗り込んだ三日月の阿頼耶識とMSを繋げる。システムを立ちあげるとたちまちモニターには文字の羅列が流れ始めた。
「これ、なんて読むの?」
「あ?ガンダム・フレームタイプ...バ、ババ、バ、バロ?」
『バ?何なにどれ?』
自分にも読めるかしらと覗き込んだ瞬間、三日月が突然苦しみ始めた。恐らく、MSからの情報が三日月のキャパを圧倒的に上回ってしまっているのだろう。鼻からは血が流れ続けている。
『ミカ、三日月!大丈夫なの?!ミカ!』
「おやっさん!シアン!もう上がもたない!」
「ああ、だが三日月の様子が...」
『三日月!』
バルバトス、このMSの名だと。三日月はそう呟いた。苦しんでもなお向かおうとするこの姿勢は彼にしか出来ないことだろう。普通ならもう既に頭がパンクして神経が壊れてもおかしくないはずだ。
『三日月大丈夫なの?』
「うん、だから急ごう」
返事を聞くや否やおやっさんは出撃の準備を始めた。三日月からはコックピットが閉まる前に大丈夫だと告げられたが、こちらとしてはそう言われても気が気でない。ヤマギがリフトアップの準備を進めていると三番から出るという話でまとまった。
「でもあそこは出口が塞がって...」
「あそこが一番戦場に近い!」
『ヤマギ!あの機体なら大丈夫だと思うからお願い!』
段々上がっていくリフトをこの場にいる者達が揃って見つめている。あれは希望でもあるが、その反面何が起こるか分からない為災厄の可能性すら秘めた兵器。ただ、例え何が起きたとしても三日月さえ無事に帰ってきてくれればそれで良い。機体がどれだけ大破しても、三日月が命を失わなければ。
「行っちまったな」
『うん...』
いつの間にか戻ってきていたビスケットとその隣ではクーデリアが三日月の出ていった方を見つめている。二人の側まで行き、それに習いビスケットの隣に並んだ。
「彼は、勝てるのですか?」
クーデリアは何とも言えない表情のまま固まっている。その問いにビスケットと二人で顔を見合わせ、口を揃えて答えた。さあ?、と。まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかったのか、彼女は驚いたように目を見開いた。
「僕達はただ、負けないように抗うことしか出来ない」
『じゃないと潰されるのはこっちだ。例えそこが未知の世界でも、私達は止まってなんていられないよ』
そうして今まで生きてきたように、自分達は必死に抗い戦い抜くしかない。世界は優しくなどないのだから。その言葉を聞いた彼女は悲しそうに瞳を伏せた。