01
子供に人権なんて存在しない。火星というこの地では、日々使い捨ての駒として過酷な重労働を強いられている。時には安い兵力として戦闘へ送り込まれ、その度多くの命が散っていった。それはきっと今までそうであったように、これからもこの世界では当たり前として続いていく。果たして、子供が不当に搾取される時代は誰かの手によって止められるのだろうか。
『何の話?』
午前中のノルマをなんとか終わらせ食堂へ向かうと、何やらオルガ達のテーブルが賑やかだった。今が休憩兼食事中だということを除いてもシノがやけに浮き足立っているのが分かる。今日の昼食であるスープとリゾットの中間のようなものを片手に近寄り、ビスケットの隣に腰掛けた。
「あ、シアン。今日は早めに片付いたんだね」
『うん、なんとか終わった。けど午後の分が残ってるから』
「なあ、シアンも聞いてくれよ!」
『そうだ何の話してたの?』
シノが随分盛り上がってたみたいだけど、と伝えると斜め向かいのユージンがため息をついた。
「俺らお嬢様の護衛するんだってよ!」
『お嬢様?オルガこれ何の話?』
「いや、さっきミカと事務所に呼び出されて」
社長の話からすると、何やら火星独立運動というのを掲げ活動しているお嬢様を地球まで送り届ける任務らしい。その話を直接聞いたというオルガ本人はお嬢様に興味が無いのか、騒ぐシノを片肘ついて眺めている。
「お嬢様ってのも同じ人間なんだしそんなに変わんないだろ」
「はあー?」
三日月の発言が気に触ったらしく、シノは突然大声を上げた。
『お嬢様、ねえ...』
お嬢様なんて、同じ女であるということ以外自分とは接点も無くあまり想像がつかない。きっと毎日可愛いお洋服を着て綺麗な髪型をして買い物だとかピクニックだとかに行くんだろうか。自分のように毎日機械のオイルやら部品に囲まれる生活と全く違うのは確かだ。
『お嬢様かあ』
「シアンはお嬢様に興味あるの?」
『ううん...興味は無いかも』
こてんと首を傾げるビスケットに可愛らしさを感じつつ考えるが、興味があるというよりも格差を感じていただけだ。そもそもCGS唯一の女とはいえやっている作業は他の男性陣と同じ。それでもなんとかこなしてしまう辺り、これは最早女ですらないかもしれない。
「タカキ」
「はい、水ですか?」
いや、その傷、と口にした三日月の方を見るとタカキの頬には湿布が貼ってあった。痛そうに。誰がやったのかなんていちいち聞かずとも、すぐに分かる。
『タカキ、大丈夫?』
「平気っす。慣れてるんで」
『でも、辛くなったら言いなよ』
「はい!ありがとうございますシアンさん」
タカキもそうだが自分より年下の子達やそれより年少の子達がこうして怪我をつくっているのを見ると、なんとか守らなくてはと思う。無理をするなとはここにいる以上言えないがせめて辛い時はそばに居てあげたい。器の中ですっかり冷めきったものをかき混ぜながら、ユージンの話を聞いていたもののオルガの言葉にヒートアップしてしまったようだ。
「俺ら参番組の隊長がそんなんだからいつまで経ってもこんな扱いなんじゃねえか!」
「やめなよユージン」
「うっせえビスケット!てめえは黙ってろ!」
『ちょっとユージン今のは聞き捨てならないんだけど。こんなに可愛いビスケットに黙ってろって?』
テーブルに両手をついてユージンの方へ向き合う。話が拗れるからやめなよ、とビスケットにジャケットの裾を引かれたが女にも黙っていられない瞬間がある。突っかかられたユージンの方も黙っていられなかったようで、お互い睨み合う形となった。
「はあ?うっせえなシアンも黙ってろ!」
『ユージンこそちょっとは静かにしたら?』
ユージンが更に距離を詰めようと前のめりになったところで、耳を掴み引き寄せた三日月に阻止された。よっぽど痛いのか目尻に涙を浮かべ始めるユージンに反して三日月の顔は至って冷静だ。掴まれたところから徐々に赤く染まってきている耳に、オルガは止めるようミカへ声をかけている。
「喧嘩じゃないの?」
『喧嘩じゃなくてユージンが一方的につっかかってきてるだけだよ』
「ふーん。ならいいや」
落ち着きを取り戻し始めたユージンは、浮かせた腰を再び椅子へと戻す。そろそろ始まる午後の作業に備えまだ残っているそれを一気に流し込んだ。