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「やあ、そろそろ戻ってくると思ったよ」

久しぶりに足を踏み入れたマンションの一室。彼は当時と何ら変わらぬその姿で出迎えてくれた。全身黒一色という変わらず異質なその姿で。デスクのチェアに偉そうに座り込んでいるところも、人を馬鹿にしたように笑うところも、変わらないどころかパワーアップしているように感じる。

「で、やっぱり原因はあれ?それとももう一個の方?」
『分かってるくせに』
「おっと、それは俺のセリフだ」

取らないでほしいなあ、なんて彼は至極おかしそうに笑う。暫く離れていたここに戻ってくる理由なんて彼ならとっくに分かっているはずだ。それでも聞いてくるあたり本当に嫌味でしかない。

「まあいいさ。君がここに戻ってきたことは事実であり喜ぶべきことだからね」
『私は本当は戻りたくなんてなかったんだけど』
「そんな事言わずにこれからを楽しめばいいじゃないか。そうだ、改めておかえり。そしてようこそ、ゆら」

そう言って臨也は仰々しく手を広げてみせた。本当に、世の中の嫌味を集めて出来た人間みたいだ。人の悲劇も辛さも自分にとっては暇つぶし程度にしか考えていないのだからとんでもなく性格が悪い。未だおかしそうに手を広げている姿を横目に、遠慮なくソファーへと飛び込んだ。

『本当臨也って性格悪いよね』
「ありがとう、最高の褒め言葉だ」
『そういうところだね』

そんな人間だとわかってはいるものの、出会ってから既に8年程立ってしまったのか。

『ねえ、暫くここにいてもいい?』
「暫くと言わず、ずっとここにいればいいじゃないか。ここは君の出発点であり帰ってくるべき最終地点だろう?」

珍しく真面目な顔で正論を言われ、頷くことしか出来なかった。

「今日からまた君のおかげで楽しい日々が送れそうだ」