※SSS


 スーパーの一角で、透明袋いっぱいに詰まった青梅が陳列されていた。その隣にあるのは大きな透明の容器。新緑が芽吹く、春と夏の狭間。もうそんな季節になったのかと思った時には、私はその二つを手に取り、レジへと向かっていた。




「何しとるん?」
「梅酒を作ってみようかなと思って」

 台所にやってきた信介くんが背後から私の手元を覗く。あく抜きしたばかりの梅。ひとつひとつ丁寧に水分をふき取り竹串でヘタを取ってゆく。青く、まだ若々しい色をした皮は結婚生活が始まったばかりの私達を表しているみたいで愛おしさを感じた。

「それ全部するん?」
「うん」
「手伝うわ」
「いいの?」
「ええに決まっとるやろ。二人でやったほうが早いしな」
「助かる。ありがとう、信介くん」

 隣に立った信介くんは、私の動作を観察しながら同じように梅のヘタをとってゆく。地味な作業だけど、梅のエグ味をとるために大切な作業。梅へ手を伸ばす度に私の身体と信介くんの身体が触れて、私は小さく笑みをこぼす。
 信介くんが手伝ってくれるから、一人でやるよりもずっと楽しい。

「信介くん、手慣れてるね」
「ようばあちゃんが作っとったからな」
「想像出来るなぁ。信介くんとおばあちゃんが隣り合って梅酒作ってる姿」

 消毒を済ませた容器に、梅と氷砂糖を交互に入れる。お酒を注ぎ蓋をぎゅっと強く、強く締めた。あとは美味しく熟される一年後を待つだけ。長いけれど、でもきっと二人だったらあっという間に過ぎてゆく時間。

「出来上がった梅酒、ばあちゃんに持ってったら喜ぶと思うで」
「そうだね。美味しく出来上がってるといいな。来年が楽しみだ」
「せやな」

 信介くんが柔らかい瞳で私を見つめる。心臓の奥が優しく揺れて、急に信介くんがたまらなく愛おしいと感じた。ああ、きっと私達もゆっくりと熟されるのだろう。何年も、何十年もかけて。
 来年も再来年も、こうやって同じ会話を繰り返すことが出来きますようにと願う。喜劇でも悲劇でもない、ただただ凪ぐような優しい時間の中に、信介くんといつまでも浸かっていたいと思うのだ。