※SSS

 部活帰りに俺と飯綱さんと名前さんの三人で寄った駅前のアイス屋には客がいなくて、まさに閑古鳥が鳴いている状態だった。
 コンビニへ温かいお茶を買いに行った飯綱さんの帰りを待つため、外のベンチに腰掛ける。伝わるベンチの冷たさ。きっと名前さんがこの後「寒い」と言い出すことを見越して飯綱さんはコンビニへ言ったのだと思う。そして多分、飯綱さんがそういう理由でコンビニへ行ったことを名前さんもまた理解しているはずだ。
 マネージャーが自分の彼女というのはどういう気分なんだろうな、とぼんやり考えていると名前さんが声をかけてくる。

「ミント味ってさ、人を選ぶよね。聖臣は好き?」
「俺は歯磨き粉食べてるみたいで嫌いです」
「あはは。嫌いな人の典型的な理由だ」

 そう言って名前さんは手に持っていたミント味のアイスを口に運んだ。コーンに乗ったアイスをこぼさないようにスプーンですくって食べる名前さんの頬は赤い。なにもこんな寒い日にそんなアイスを食べなくてもいいだろうと思うけれど口には出さなかった。美味しそうに食べる様子を見ていたらそんな野暮な事を言う気にはなれなかった。

「なんで人を選ぶって言うんだろ」
「え?」
「まるでミントが私達を選んでるみたいじゃない? 実際好き嫌いを決めるのは私達なのに変わってるよね」
「……こんな寒い日にアイス食べたいって言う先輩も変わってますけど」
「アイスは年中無休で食べたいじゃん」

 そうしてまた名前さんは楽しそうに笑うから俺は視線を外して、早く飯綱さんが戻ってくることを願う。このまま名前さんとふたりで話しをしたいと思う俺と、これ以上一緒に居たくないという思いがせめぎ合って落ち着かない。

「掌、遅いね」
「もうそろそろ戻ってくると思いますけど」
「一口食べる?」
「いいです」
「そう言うと思った。聖臣が誰かと食べ物シェアするの想像出来ないもんなぁ」
「一生ないと思います」
「言い切るねぇ」

 一瞬、一口くらいなら、そのスプーンに乗ったほんの一口サイズのミントなら、口に含んでも良いかもしれないという気持ちが過った。目を覚ますような味で名前さんへの想いを終わらせてほしい、なんて事を考えながら。

「飯綱さん戻ってきましたよ」
「あ、本当だ! 掌!」

 名前さんは嬉しそうに手を振る。ミント味のアイスを食べている時よりもよっぽど輝いている笑顔。その横顔を見て俺は性懲りもなくまだこの人が好きなんだと思う。
 俺は名前さんに選ばれなかった人間だ。この人のミント味にはなれない。一生。どれだけ想っても。だからこの気持ちが溶けてなくなるまでひっそりと息をする。冷凍庫の片隅で忘れ去られたアイスのように。

(22.11.08)