「名前に言わなくちゃいけないことがある」
部活の休憩中にスポーツドリンクを手渡した際、木兎は神妙な面持ちでそんなことを口にした。
なにかとても重要な事を言われるのかもしれないと身構えたけれど、不意に今日はエイプリルフールだと思い出して走った緊張を解く。
「えーなになにー?」
木兎のことだからどうせしょうもない嘘をつくんだろう。
まあ一旦付き合ってあげようかと台本をなぞるように返事をすれば、木兎は少し顔を近づけて内緒話をするように言った。
「……実は俺、赤葦と付き合ってて」
ああそうきたか。
木兎なりに奇をてらったつもりなのかもしれないけど、もう少し捻りがほしかった。
「そんなバレバレな嘘つかないでよ」
「嘘じゃねーって!」
「だって今日、エイプリルフールじゃん」
「ウッ……」
木兎はそれ以上何も思い浮かばなかったのか、イタズラが失敗した子供のように口を尖らせて悔しそうな表情を見せる。
「クソー、絶対騙せると思ったんだけどなー」
本気で私を騙せると思っているところが木兎らしい。
私はそのままちらりと赤葦を見る。悔しそうな木兎を見て、芽生えたのは悪戯心。
「っていうか、赤葦と付き合ってるの私だし」
まるい目が大きく見開かれる様子に、私の嘘にすっかり騙されたと悟る。
赤葦には申し訳ないけど今日はエイプリルフールだし大目にみてもらおう。
「なーんて――」
「…………いつから?」
「え?」
「いつから付き合ってんの?」
私の言葉を遮って木兎は問う。
「えーっと……1ヶ月前くらい?」
「赤葦のこと好きだったってこと?」
「う、うん。まあ、そうなるかな」
こんなに深堀してくるなんて想定外だった。嘘だと伝えるタイミングを見失って、更に嘘を重ねてしまう。
「あのね、木兎。聞いて欲しいんだけどこれは――」
「いや、いい。わかってる。気づかなかった俺が悪い! でも今凄いフクザツだからちょっと待って!」
「え、えぇぇ……」
わかってないわかってない。盛大に騙されちゃってる。
頭を抱える木兎にどう声をかけて良いのか分からず悩んでいると、赤葦がやってきてそっと私に耳打ちをした。
「名字さん、妙なこと言って木兎さんのこと騙そうとしてたんですか?」
「あ、聞こえてた?」
「うっすらと」
「木兎が嘘ついてくるからつい。ごめんね赤葦、巻き込んじゃって」
頭を両手で抱える木兎を前に、赤葦が深いため息を吐く。
「俺はいいですけど、ちゃんと木兎さんに本当のこと言ってくださいね」
「や、私も早々にネタバレするつもりだったんだよ」
「木兎さん、ダメージ受けてるみたいなんで」
「ダメージ?」
ってなんの? と思ったけれど、木兎にとって赤葦に彼女が出来てしまうのは弟分をとられるみたいで「フクザツ」に感じることなのかもしれない。
「ああ、私に赤葦とられちゃったことね」
「……いや、どう考えても俺に名字さんをとられたことでしょ」
赤葦は小さな声で言った。聞き取れないくらいの、とてもとても小さな声で。
「ごめん、今なんて?」
「……なんでもないです」
もう休憩時間が終わってしまう。
いくらエイプリルフールという免罪符があっても、ここまで見事に騙されてる様子を見るとさすがに心が痛いしちゃんと本当の事を言わないと。
「木兎」
できるだけ丁寧に、優しくその名前を呼ぶ。
嘘だよって言ったら木兎はどんな反応をするんだろう。怒ることはないと思うけど拗ねたりするかもしれない。
それもまた木兎らしくて面白いと、すぐ目の前に迫る未来を想像して笑いそうになった。
(25.1.6)
部活の休憩中にスポーツドリンクを手渡した際、木兎は神妙な面持ちでそんなことを口にした。
なにかとても重要な事を言われるのかもしれないと身構えたけれど、不意に今日はエイプリルフールだと思い出して走った緊張を解く。
「えーなになにー?」
木兎のことだからどうせしょうもない嘘をつくんだろう。
まあ一旦付き合ってあげようかと台本をなぞるように返事をすれば、木兎は少し顔を近づけて内緒話をするように言った。
「……実は俺、赤葦と付き合ってて」
ああそうきたか。
木兎なりに奇をてらったつもりなのかもしれないけど、もう少し捻りがほしかった。
「そんなバレバレな嘘つかないでよ」
「嘘じゃねーって!」
「だって今日、エイプリルフールじゃん」
「ウッ……」
木兎はそれ以上何も思い浮かばなかったのか、イタズラが失敗した子供のように口を尖らせて悔しそうな表情を見せる。
「クソー、絶対騙せると思ったんだけどなー」
本気で私を騙せると思っているところが木兎らしい。
私はそのままちらりと赤葦を見る。悔しそうな木兎を見て、芽生えたのは悪戯心。
「っていうか、赤葦と付き合ってるの私だし」
まるい目が大きく見開かれる様子に、私の嘘にすっかり騙されたと悟る。
赤葦には申し訳ないけど今日はエイプリルフールだし大目にみてもらおう。
「なーんて――」
「…………いつから?」
「え?」
「いつから付き合ってんの?」
私の言葉を遮って木兎は問う。
「えーっと……1ヶ月前くらい?」
「赤葦のこと好きだったってこと?」
「う、うん。まあ、そうなるかな」
こんなに深堀してくるなんて想定外だった。嘘だと伝えるタイミングを見失って、更に嘘を重ねてしまう。
「あのね、木兎。聞いて欲しいんだけどこれは――」
「いや、いい。わかってる。気づかなかった俺が悪い! でも今凄いフクザツだからちょっと待って!」
「え、えぇぇ……」
わかってないわかってない。盛大に騙されちゃってる。
頭を抱える木兎にどう声をかけて良いのか分からず悩んでいると、赤葦がやってきてそっと私に耳打ちをした。
「名字さん、妙なこと言って木兎さんのこと騙そうとしてたんですか?」
「あ、聞こえてた?」
「うっすらと」
「木兎が嘘ついてくるからつい。ごめんね赤葦、巻き込んじゃって」
頭を両手で抱える木兎を前に、赤葦が深いため息を吐く。
「俺はいいですけど、ちゃんと木兎さんに本当のこと言ってくださいね」
「や、私も早々にネタバレするつもりだったんだよ」
「木兎さん、ダメージ受けてるみたいなんで」
「ダメージ?」
ってなんの? と思ったけれど、木兎にとって赤葦に彼女が出来てしまうのは弟分をとられるみたいで「フクザツ」に感じることなのかもしれない。
「ああ、私に赤葦とられちゃったことね」
「……いや、どう考えても俺に名字さんをとられたことでしょ」
赤葦は小さな声で言った。聞き取れないくらいの、とてもとても小さな声で。
「ごめん、今なんて?」
「……なんでもないです」
もう休憩時間が終わってしまう。
いくらエイプリルフールという免罪符があっても、ここまで見事に騙されてる様子を見るとさすがに心が痛いしちゃんと本当の事を言わないと。
「木兎」
できるだけ丁寧に、優しくその名前を呼ぶ。
嘘だよって言ったら木兎はどんな反応をするんだろう。怒ることはないと思うけど拗ねたりするかもしれない。
それもまた木兎らしくて面白いと、すぐ目の前に迫る未来を想像して笑いそうになった。
(25.1.6)