乾燥した空気が頬を刺激する。吐息は白く、指先は赤い。12月の宮城は冬ど真ん中だ。
 燃えるような色彩に深い夜が混じり合う空。一緒に帰るのは久しぶりだからか、足取りは自分でも驚く程に軽かった。

「冬だねぇ」
「なに当たり前のこと言ってんの」
「だって寒いなって」
「そりゃあ寒いでしょ、冬なんだから」

 隣に並ぶ月島くんをそっと見上げてみる。私よりうんと高い身長。歩幅だって広くていつ置いていかれてもおかしくないはずなのに、私に合わせて歩いてくれる優しさが確かにここにある。
 そっけない返事とは裏腹な態度が、だけど、月島くんらしくて私は思わず笑ってしまいそうになった。 

「月島くん、鼻が赤くなってる」
「名前は鼻だけじゃなくて頬も赤くなってるけど」

 リンゴみたいに真っ赤になっていたらちょっと恥ずかしいかもしれないとマフラーを鼻まで覆う。
 薄く積もった雪の上を歩いていると、なぜだか急に真夏を思い出した。今日とは真逆の茹だるような暑さの日にも月島くんと一緒に帰ったな、と。
 あっという間に超えた秋。そして今も続く関係。このままずっと、ずーっとずっと一緒にいられたらいいなぁなんて事を考えた。

「夏ははやく冬になればいいって思ってたのに、冬になるとはやく夏になれって思っちゃうよね」
「単純でしょ」

 月島くんはそう言って片方の口端を上げる。皮肉めいた表情の中にある柔らかさが私はそれでも好きだと思う。
 スカートから覗く素足は寒いしすぐ肌が乾燥しちゃうし朝はベッドから出るのが辛いけど、月島くんのコート姿とかマフラー姿だとか夏には見れないところを見られるのだと思うと冬が愛おしくなるから不思議だ。

「あ、雪降ってきたね」

 雪は柔らかく、風に踊るようにゆっくりと落ちてきた。

「なに雪くらいで喜んでんの」
「ええ、月島くん雪嫌いなの?」
「好きに見える?」

 苦虫を噛み潰したような顔。うん、好きには見えない。
 雪が好きじゃないって言うよりも、きっと月島くんは寒いのが嫌なんだろうな。私に単純、って言ったけれど案外月島くんだって単純な気がする。
 そう思うとなんだか可愛いなぁと感じてしまって、私はまた笑ってしまいそうになった。

「ちょっと、なにその顔」
「その顔とは?」
「急にニヤニヤしないでくんない」
「だって月島くんが可愛いから」
「意味わかんない……」

 月島くんの反応に満足しながら、手袋を忘れて赤くなった指先に息を吐く。

「……ねえ」
「なに?」
「貸して」
「何を?」
「手」

 え? と、私が聞き返す前に月島くんは私の冷たい手を握った。

「うわ、なにこの冷たさ」

 握った手はそのまま月島くんのコートのポケットへ辿り着く。私よりも少しだけ温かい月島くんの手。
 ポケットの中の小さな世界で私たちはぎゅっと寄り添う。誰にも見られない世界で、ひっそりと。

「へへへ。手袋忘れて正解だった」
「だから単純すぎ」
「幸せだから良いの」

 握り合う手に先程よりも少し強く力がこもる。
 それだけで、ああもう冬は最高だなって思うから私は月島くんの言うように単純なのだろう。

「月島くん」
「なに」
「好き。大好き」
「……はいはい」

 家までの距離がもっとあれば良いのに。
 きっとこんなことを言ったら月島くんは馬鹿じゃないのって言うのかもしれないけれど。

(15.12.05)