部活終わりに寄ったコンビニ。普段目にするお菓子のパッケージにおばけのイラストが描かれているのを見て、そういう季節だということを思い出す。同時に、名前はこういうのが好きだろうなと幼馴染の顔が脳裏に浮かんだ。
去年の10月31日も嬉々として「トリックオアトリート」なんて言ってきたし、きっと今年も同じことを言ってくるのだろう。
――だからこれはその対策で、名前が好きそうだからっていう理由じゃないし。
愉快に笑うジャックオランタンと見つめ合いながらそんな事を思う。去年みたいにお菓子をせがまれるのも、いたずらしていいかと聞かれるのも面倒なだけ。それならば今のうちに用意している方が好都合。
だから、これは必要な行為だとお菓子の箱を手に取ってレジへ向かった。これで31日に名前が何を言ってこようとも、今年の僕が困る事はない。
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そうして31日を迎えたは良いものの、放課後を迎ても名前からは何も言われないまま。ハロウィンのハの字すらみせない様子に、こちらの方がしびれを切らしてしまいそうだった。
そもそも、こっちはもう部活に向かわなくちゃいけないんだから言うならさっさと言ってほしいんだけど。
このままじゃ埒が明かないと思い、深い深い溜息を吐いてから名前を呼び止めた。
「ちょっと」
「なになに、どうしたの?」
悩みのなさそうな能天気な顔。お菓子を渡したらもっと能天気な顔になるんだろう。その顔を想像すると脱力してしまいそうになるからなるべく想像はしないでおく。
「僕もう部活行くんだけど」
「う、うん?」
「その前に何か言う事ないわけ?」
「えー……部活頑張ってね、とか?」
何を誤解したのか、名前はそんな見当外れな事を言った。……まあこれはこれで悪くないけど察しが悪すぎる。
「あれ、違った?」
うん、違う。
今日しか言えない言葉があるんだし、僕がわざわざお菓子を用意してるんだから言うべき言葉はひとつでしょ。
まったくこっちが悪戯したくなると、ふつふつ沸きあがる気持ちを抑えてヒントを与える。
「今日、何の日?」
「ハロウィン?」
「そこまでわかってるならさっさと言って」
「え。え! え!? 蛍くんにそれを言って良いの? 言ったら絶対うざがられると思ってた!」
なにその驚いた顔。去年は散々言ってきたくせに。
やっぱりなんかムカつくしめんどくさいと名前から顔を逸らす。
「……うるさい。言うなら早く言って」
「ト、トリックオアトリート!」
隠しきれていない喜びが声に乗っていたから、先日買ったお菓子を渡す。
――渡さなかったら誰も食べないまま賞味期限を向かえるだけだから。
愉快に笑うジャックオランタンとまた目が合ったから、僕はまた性懲りも無くそんな事を考える。
「はい、ドーゾ」
「用意してくれてたの?」
「たまたま鞄に入ってただけ」
「だとしても嬉しい!」
「あ、そ」
「パッケージも可愛いね。大切に食べる」
「……大袈裟」
ほら、やっぱり。ますます能天気な顔。気を抜いたらこっちにまで伝染してきそうなくらい笑顔になるのはやめて欲しい。
だけどまあ、そんなに喜ぶのなら来年はもうちょっと豪華なお菓子を用意してもいいかもしれない。
なんて、気が向いたらだけど。
(24.10.29)
去年の10月31日も嬉々として「トリックオアトリート」なんて言ってきたし、きっと今年も同じことを言ってくるのだろう。
――だからこれはその対策で、名前が好きそうだからっていう理由じゃないし。
愉快に笑うジャックオランタンと見つめ合いながらそんな事を思う。去年みたいにお菓子をせがまれるのも、いたずらしていいかと聞かれるのも面倒なだけ。それならば今のうちに用意している方が好都合。
だから、これは必要な行為だとお菓子の箱を手に取ってレジへ向かった。これで31日に名前が何を言ってこようとも、今年の僕が困る事はない。
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そうして31日を迎えたは良いものの、放課後を迎ても名前からは何も言われないまま。ハロウィンのハの字すらみせない様子に、こちらの方がしびれを切らしてしまいそうだった。
そもそも、こっちはもう部活に向かわなくちゃいけないんだから言うならさっさと言ってほしいんだけど。
このままじゃ埒が明かないと思い、深い深い溜息を吐いてから名前を呼び止めた。
「ちょっと」
「なになに、どうしたの?」
悩みのなさそうな能天気な顔。お菓子を渡したらもっと能天気な顔になるんだろう。その顔を想像すると脱力してしまいそうになるからなるべく想像はしないでおく。
「僕もう部活行くんだけど」
「う、うん?」
「その前に何か言う事ないわけ?」
「えー……部活頑張ってね、とか?」
何を誤解したのか、名前はそんな見当外れな事を言った。……まあこれはこれで悪くないけど察しが悪すぎる。
「あれ、違った?」
うん、違う。
今日しか言えない言葉があるんだし、僕がわざわざお菓子を用意してるんだから言うべき言葉はひとつでしょ。
まったくこっちが悪戯したくなると、ふつふつ沸きあがる気持ちを抑えてヒントを与える。
「今日、何の日?」
「ハロウィン?」
「そこまでわかってるならさっさと言って」
「え。え! え!? 蛍くんにそれを言って良いの? 言ったら絶対うざがられると思ってた!」
なにその驚いた顔。去年は散々言ってきたくせに。
やっぱりなんかムカつくしめんどくさいと名前から顔を逸らす。
「……うるさい。言うなら早く言って」
「ト、トリックオアトリート!」
隠しきれていない喜びが声に乗っていたから、先日買ったお菓子を渡す。
――渡さなかったら誰も食べないまま賞味期限を向かえるだけだから。
愉快に笑うジャックオランタンとまた目が合ったから、僕はまた性懲りも無くそんな事を考える。
「はい、ドーゾ」
「用意してくれてたの?」
「たまたま鞄に入ってただけ」
「だとしても嬉しい!」
「あ、そ」
「パッケージも可愛いね。大切に食べる」
「……大袈裟」
ほら、やっぱり。ますます能天気な顔。気を抜いたらこっちにまで伝染してきそうなくらい笑顔になるのはやめて欲しい。
だけどまあ、そんなに喜ぶのなら来年はもうちょっと豪華なお菓子を用意してもいいかもしれない。
なんて、気が向いたらだけど。
(24.10.29)