燦々と照りつける太陽がジリジリと肌を焦がす。草むらから奏でられる虫の声を聞きながらようやく影山家の玄関の前にたどり着いた時は心底ホッとした。これでようやく涼む事が出来るって。
「今日おばさんは?」
「いねぇ」
飛雄しかいない影山家に来るのは3回目だ。別に勉強教えるだけだし、と思いながらも2人きりなんだなと思うと今更ながら緊張が増す。まあだからって何があるわけじゃないけど。
そんな風に考えながらも、足を踏み入れた玄関が涼しかったからそれまで抱えていた緊張は一瞬にして忘れてしまった。
首筋にまとわりつく髪の毛が邪魔だ。飛雄の後に続いて部屋に入ると、少し乱暴に鞄を床に置いた飛雄が私の方を振り向いて口を開く。
「名前」
と、飛雄が私の肩に手を置いた。
「飛雄?」
半ば強引に、だけど荒々しくは無い手つきで壁に押し付けられて飛雄の顔が近づいてくる。このままキスされるんだろうなってわかったから、少しだけ顔を背ける。
まだ冷房の入っていない飛雄の部屋は玄関よりも暑くて、首筋を汗が伝ったのがわかった。再び顔を出す、忘れていた緊張。
「ちょ、ちょっと待って」
「……んだよ」
「顔、近い」
「別にいいだろ」
「やだ」
「なんでだよ」
「……今、絶対汗臭いから」
キスという行為を恥ずかしいとは思わなくなったのに、自分の汗の匂いはまだ気になる。そういう些細な乙女心を飛雄がわかってくれるとは思えなくて私はさらに顔を逸らした。
だけど飛雄が今どんな表情をしているのかは気になって、視線だけをそちらに向ける。いとも簡単に私の自由を奪ったくせに、私よりも苦しそうな顔をしている飛雄。余裕のないその表情に胸が高鳴ったって言ったらさすがに怒られるかな。
「臭くねぇ」
「臭い。絶対臭い」
「臭くないって言ってんだからそれでいいだろ」
「良くないんだってば」
肩に置かれた手のひらが熱い。少し動けば触れ合える距離はもう匂いなんて心配するだけ無駄だと分かっているのに、つい抵抗してしまう。暑さが意識を朦朧とさせるから、気を抜けばどこまでもドロドロに溶けてしまいそうだ。
「ていうか、飛雄、今日、強引……」
私は飛雄のことが凄く好きで、付き合えている今がとても幸せで、だけどもっと知りたいと思うから、少しのきっかけでどこまでも貪欲になってしまう気がして怖い。
大人でもないけど子供でもない私は時々そういう自分が恥ずかしくなって目を逸らしたくなるけれど、自分ではどうしようもできないから仕方ない。私だってキスしたいって思ってるくせにね。
「……汗が」
「汗?」
「汗が、エロかったから、したくなった」
言い訳をするときみたいな小さな声と苦虫を噛み潰したような顔。
ああ、でもちょっとわかる。汗ばんだ飛雄の肌は確かに色気があって、上手く言えないけれど、その様子を見てると心臓がギュッてどうしようもなく痛くなる。
「……そう、ですか」
見つめ合う瞳は雄弁で、結局私は逆らえきれずに唇を合わせた。
互いの唾液と唾液を交換するような熱さを伴うキスは私の体温を上昇させたけれど、残ったのは気持ち良いと言う快感だけだった。
「……飛雄って、頭の中バレーボールしかなさそうなのにこういうキスはちゃんと知ってるんだね」
「馬鹿にすんな」
意外と健全な男子高校生なんだな、と思いながらようやく電源が入れられたサーキュレーターの前に座って風を浴びる。
汗がゆっくりと引いていく。だけど、私ばかりが熱を持て余している。
「それで、どの教科がやばいんだっけ?」
「全部」
「特にやばいのは?」
「………化学」
何事もなかったかのように会話をしてみても頭の中はさっきのキスでいっぱいで、誰が見ているわけでもないのに悪いことをしてしまった気分だった。
2人きりの部屋はこれからどこまで温度が上がるのだろうか。それはまだ知る由もない。
(24.06.30)
「今日おばさんは?」
「いねぇ」
飛雄しかいない影山家に来るのは3回目だ。別に勉強教えるだけだし、と思いながらも2人きりなんだなと思うと今更ながら緊張が増す。まあだからって何があるわけじゃないけど。
そんな風に考えながらも、足を踏み入れた玄関が涼しかったからそれまで抱えていた緊張は一瞬にして忘れてしまった。
首筋にまとわりつく髪の毛が邪魔だ。飛雄の後に続いて部屋に入ると、少し乱暴に鞄を床に置いた飛雄が私の方を振り向いて口を開く。
「名前」
と、飛雄が私の肩に手を置いた。
「飛雄?」
半ば強引に、だけど荒々しくは無い手つきで壁に押し付けられて飛雄の顔が近づいてくる。このままキスされるんだろうなってわかったから、少しだけ顔を背ける。
まだ冷房の入っていない飛雄の部屋は玄関よりも暑くて、首筋を汗が伝ったのがわかった。再び顔を出す、忘れていた緊張。
「ちょ、ちょっと待って」
「……んだよ」
「顔、近い」
「別にいいだろ」
「やだ」
「なんでだよ」
「……今、絶対汗臭いから」
キスという行為を恥ずかしいとは思わなくなったのに、自分の汗の匂いはまだ気になる。そういう些細な乙女心を飛雄がわかってくれるとは思えなくて私はさらに顔を逸らした。
だけど飛雄が今どんな表情をしているのかは気になって、視線だけをそちらに向ける。いとも簡単に私の自由を奪ったくせに、私よりも苦しそうな顔をしている飛雄。余裕のないその表情に胸が高鳴ったって言ったらさすがに怒られるかな。
「臭くねぇ」
「臭い。絶対臭い」
「臭くないって言ってんだからそれでいいだろ」
「良くないんだってば」
肩に置かれた手のひらが熱い。少し動けば触れ合える距離はもう匂いなんて心配するだけ無駄だと分かっているのに、つい抵抗してしまう。暑さが意識を朦朧とさせるから、気を抜けばどこまでもドロドロに溶けてしまいそうだ。
「ていうか、飛雄、今日、強引……」
私は飛雄のことが凄く好きで、付き合えている今がとても幸せで、だけどもっと知りたいと思うから、少しのきっかけでどこまでも貪欲になってしまう気がして怖い。
大人でもないけど子供でもない私は時々そういう自分が恥ずかしくなって目を逸らしたくなるけれど、自分ではどうしようもできないから仕方ない。私だってキスしたいって思ってるくせにね。
「……汗が」
「汗?」
「汗が、エロかったから、したくなった」
言い訳をするときみたいな小さな声と苦虫を噛み潰したような顔。
ああ、でもちょっとわかる。汗ばんだ飛雄の肌は確かに色気があって、上手く言えないけれど、その様子を見てると心臓がギュッてどうしようもなく痛くなる。
「……そう、ですか」
見つめ合う瞳は雄弁で、結局私は逆らえきれずに唇を合わせた。
互いの唾液と唾液を交換するような熱さを伴うキスは私の体温を上昇させたけれど、残ったのは気持ち良いと言う快感だけだった。
「……飛雄って、頭の中バレーボールしかなさそうなのにこういうキスはちゃんと知ってるんだね」
「馬鹿にすんな」
意外と健全な男子高校生なんだな、と思いながらようやく電源が入れられたサーキュレーターの前に座って風を浴びる。
汗がゆっくりと引いていく。だけど、私ばかりが熱を持て余している。
「それで、どの教科がやばいんだっけ?」
「全部」
「特にやばいのは?」
「………化学」
何事もなかったかのように会話をしてみても頭の中はさっきのキスでいっぱいで、誰が見ているわけでもないのに悪いことをしてしまった気分だった。
2人きりの部屋はこれからどこまで温度が上がるのだろうか。それはまだ知る由もない。
(24.06.30)