「残りの高校生活……まあ本気出せば一人くらいはいけると思うんだよね」
「は?」
「いや、だから、彼氏」

 言うと、向けられたのはどこか呆れたような眼差しだった。菅原は優しいし頭も良いからつくろうと思えば彼女なんてすぐにできるのかも知れないけれど、こっちにとって彼氏がいるかいないかは死活問題なんです。重要案件なんです。

「まあ……無理だな!」
「うわ、言い切った。イケメンだからって何言っても許されると思うなよ!」

 酷い、と泣き真似をしてみても、そんな私を菅原は「わざとらしい」と一蹴するだけだった。ちょっとあたりが強すぎると思う。

「そもそも卒業まで残り半年だろ? 受験もあるし厳しくね?」
「私まだ本気出してないだけだから。私が本気出したらやばいくらいに凄いから」
「やばいくらいに凄いって例えば?」
「芸能界にスカウトされちゃうかもしれない」

 菅原はお腹を抱えて笑いだす。どうやらツボに入ったようで、その笑い声はお昼休みの喧騒に負けないくらいの陽気さを孕んでいた。
 確かにスカウトは言いすぎかもしれないけど「お前ならやれる」くらいは言ってほしい。

「笑いすぎなんですけど!」
「いや、悪い、悪いとは思ってんだけど……」
「……菅原には一生彼女が出来ない呪いかけてやる」

 そんな呪いかけたところで、菅原は大学入ったらあっさりと彼女つくっちゃいそうだ。むしろ受験勉強が終わって全部から開放された次の日には彼女出来たわって言われる可能性だってある。
 笑いを堪える菅原は、肩を震わせながら呼吸を整えようとしていた。

「ねえまだ笑ってるじゃん」
「悪い悪い。本気出したり呪ったり名前は忙しいなって思っただけ」
「馬鹿にしてるでしょ」
「してないって。元気だなって思ってるだけだって」
「いやそれ絶対馬鹿にしてるやつ!」

 決めた。絶対に菅原よりも爽やかで背が高くて優しいイケメンと付き合ってやる。それで菅原を呼び出して、彼が私の彼氏です、って見せつけてやる。

「凄いイケメン連れくるから菅原は驚く準備だけしておいて」
「凄いイケメン?」
「菅原以上に爽やかで、背が高くて、優しい人!」

 果たしてそんな人はいるんだろうか。全部を兼ね揃えた人なんているんだろうか。いや、探すしかない。ここまで言ったのだから意地でも見つけるしかないのだ。

「じゃあ俺で良くね?」
「え?」

 菅原の口から出てきた言葉に私の時間が止まる。

「以上ってことは俺も条件に入ってるって事になると思うんだけど」

 そうかもしれないけど、そうじゃなくて。そうじゃないこともないんだけど、だって、それって菅原が私の彼氏になって私が菅原の彼女になるって意味で。

「おーい。名前、聞いてる?」
「へ、屁理屈だ……!」
「どこがだよ」

 菅原は笑う。優しい声で。爽やかな笑顔で。

「さっき俺のこともイケメンって言ってたべ?」

 言ったけど。そう思ってるけど。爽やかな笑みが不敵な笑みに変わる。

「で、どうよ?」

 その表情にドキドキしてしまったなんて絶対に言わない。

「ま、まあ? どうしてもっていうなら? 考えてあげないこともない、みたいな?」
「ツンデレか」

 悔しいから、言わない!

(15.09.27 / 23.04.29)