※SSS


 久しぶりに研磨くんの家に遊びに来たけれど、中の様子は前回来たときと比べて何も変わっていなかった。ゲームのソフトが増えたと研磨くんは言うけれど、私には誤差の範囲で気が付けない。

「研磨くん、髪伸びたね」
「あー……うん、まあ」
「切りに行かないの?」
「……そのうち」
「触ってもいい?」
「いいけど……なにすんの?」
「やった! ありがと〜」

 研磨くんの後ろに回って、出来るだけ優しく髪の毛に触れた。本当に嫌だったら嫌って言ってくれると思うし、きっと許されるはずと思ったままを口にする。

「研磨くんの髪の毛細いからさらさらで気持ちいい。結ってもいい?」
「あんまり変にしないでね」
「はーい」

 許可が降りたとその髪の毛を堪能するように指を絡めた。手持ち無沙汰の研磨くんはスマホを触り始めたけれど、私の行為を嫌がる様子はない。

「できた! 編み込み!」
「……うん」
「好きじゃない?」
「普通」

 テレビ画面に映る姿を見ながら研磨くんはそう言う。私としては結構上手にできたつもりだったんだけど。手を離すと指通りの良い髪の毛はその形を記憶することもなく、元に戻っていく。

「お団子していい?」
「お団子……」

 研磨くんからの「いい」も「だめ」も聞かずに次へ着手したけれど、やはり研磨くんは嫌がる様子も見せないので私は構わずに続けた。小さいお団子を下の位置で作れば顔周りがスッキリして、研磨くんの首筋がしっかりと目に入る。誘惑的だ、と思ったことは内緒にしておこう。

「どう?」
「まあまあかな」
「まあまあか〜。あっじゃあハーフアップ!」
「ねえ」
「なに?」

 研磨くんが私の手を止める。上半身だけを振り向かせて私を見上げる研磨くんの瞳はちょっと不服そうで、その顔の理由が思い当たらない私は驚きに目を見開いた。

「ご、ごめんね研磨くん。痛かった?」
「違う。……そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「……恥ずかしくなってきたから、もうダメ」

 可愛いと口にしてしまいそうになるのをぐっと堪えて、研磨くんの髪の毛から指先を離す。ああそうか、変わったのは部屋の中じゃなくて私達の距離感だとこのときになってようやく気がつくのだった。