※SSS


 それまで射していた太陽光を嘘だと思えるほどの鬼雨が私達を襲った。暑さを全て飲み込む勢いは衰えず、そのまま街を覆い見える世界が豹変する。

「すぐ止むかな……」
「天気予報なんて言ってたっけな」

 駆け込んだ坂ノ下商店の軒先で見上げる空は鈍く重たい色をしていて、制服も髪の毛もすぐに濡れてしまった。
 タオルはないからせめてハンカチで肌にまとわりつく雨粒を拭こうと鞄を開けた私に菅原がタオルを差し出す。多分、部活用のタオルなんだろう。角をしっかりと合わせて丁寧に折りたたまれているのが菅原らしいと思った。

「これ使って」
「え、でも」
「あ、俺は使ってないやつ。綺麗だから大丈夫」

 それは重要だけど、それだけじゃないっていうか。菅原だって私と同じように濡れてしまっているのに。

「名字が風邪ひいたら俺も困るから」
「……私も菅原が風邪ひいたら困るんだけど」

 それでも菅原は半ば強引に、押し付けるように私にタオルを渡した。
 素直に受け取ると柔らかく立ったタオルの綿と柔軟剤の香りが細やかな和みを与えてくれる。

「ありがと」
「おう」
「……なんかさ、雨の日の紫陽花って綺麗だけどさすがにここまで土砂降りだときっと紫陽花側もたまったもんじゃないよね」
「紫陽花の心配してんのかよ」
「だってほら、あそこの紫陽花とか風強っ! って思ってるよ、絶対」
「いや思ってねーべ」

 私が指さした紫陽花に視線を向けて菅原は軽快に笑った。

「……雨、止むかな」
「どうだろうな」

 止め。
 止むな。
 矛盾した感情を抱えてまた空を見上げた。
 まるで世界に2人だけと思ったのは私達も雨に飲み込まれているからなのだろう。