※SSS


 10畳ワンルームの部屋の片隅で私と倫太郎は寄り添いあっていた。
 少しの隙間さえもどかしく感じる。いっそのこと一つの生命体になりたいと思うのに、私たちはどうしたって一つにはなれない。最悪だ。
 同じものを見て同じものを聞いて同じものを食べて同じ匂いを嗅いで同じ空気を感じて、何もかも同じになりたいのにどうして神様は私達を引き離して一つの個体にしたのだろう。本当に最悪だ。

「名前、泣いててもわかんないから」

 私の頬を両手で包むように触れるその体温は温かくて、優しい声は余計に私の涙を誘発させた。
 射し込む西日。下校途中の子供の声。嫌でも時間は進んでいるんだと感じてしまう。

「泣いてる理由、教えて?」

 理由を言ったら、私と倫太郎は一緒になれるの?
 結局離れ離れになってしまうならこの部屋の中だけ時間が止まればいいのに。

「……高校は兵庫で、その次は静岡? やだ。やだやだ。愛知に戻って来てよ。私のそばにいて」

 ぶちまけた涙の理由に、倫太郎は一瞬戸惑いを見せた。

「ずっと一緒にいるって約束してくれたくせに」
「……うん」

 頼りなく私を抱きしめる。
 幼い頃に交わした指切りはいったいいつまで有効なんだろう。死ぬまでだよって言ってくれないと私、倫太郎のこと好きすぎて殺しちゃいそう。

「バレーする倫太郎なんて嫌い」
「うん」
「バレーなんてやめちゃえばいいのに」
「うん」
 
 私がどれだけ酷いことを言っても倫太郎はただ頷くだけだった。

「ごめん、名前」
「……私のこと嫌いになった?」
「嫌いになってないよ」
「じゃあ好き?」
「うん、好き」

 だけど倫太郎はこれからもバレーをすることを私は知っている。私を残して静岡に行くことも。
 だからやっぱり今日は人生で一番最悪な日なのだ。
 ああ、本当に殺したくなる。