研磨にピンチを助けてもらう


「そう言えば来週の金曜日、名前の大学の近くに行く用事あるんだけど」
「えっそうなの? じゃあ夜ご飯一緒に――あ、ダメだ。その日サークルの買い出しあるんだった」
「サークルの買い出し?」

 今やりこんでいるゲームの事で相談したくてかけた電話だった。結構長い時間話してしまったしそろそろ切らないと。そう思いつつもなかなか会話を終わらせられない私に研磨が思い出したように言う。
 せっかく会える口実が出来たと喜んだのも束の間、予定を思い出して落胆する。行きたくないな、買い出し。今、研磨と話しているのが楽しすぎて余計に行くのが嫌になってしまったなんて、研磨に言ったら謎思考だって笑うだろうか。

「気が進まないんだけど他に都合つく人いなかったんだよね。一緒に行く相手が男の子なんだけど前に告白されたことがある相手で。2人きりなの知ってたら断ってたけど行くって言った後に言われちゃって断れなくて。でもそれを理由にするのも自意識過剰みたいであれかなーって。……研磨、聞いてる?」
「………………聞いてる、けど」

 長い沈黙のあと研磨は言った。こんなことを研磨に言っても仕方ないと思いつつも少しくらい何か思ってくれたらいいなと思う自分がいるのも事実だった。まあなんとも思わないだろうからこうしてずっと友達関係から抜け出せないんだろうけど。

「だったら他の日に買い出し行けばいいじゃん。そしたらふたりきりにならないんじゃないの」
「学祭の買い出しなんだけど、その日に買わないと間に合わないよねって話で」
「ふーん……場所どこ?」
「渋谷」
「じゃあ買い出し終わったら連絡して。俺の用事も渋谷だからその後なら一緒に夜ご飯食べられるでしょ」
「え、そうなの? やった! じゃあ終わったら連絡するね」

 電話を切って予定表に書き込む。気が進まなかった買い出しも研磨との約束で一気にその日が楽しみになる。
 そして研磨と会う約束を取り付けた私は翌週の金曜日、講義が終わった後、浮かれ気分のまま当初の予定通りその彼と買い出しに行くのだった。





 必要なものを買い終え、研磨に連絡しようとスマホを手に取る。もしかしたら研磨はもう用事を終えているかもしれないと思いながらメッセージを送ったけれど既読にはならなかった。

「この後どうする? 時間あるなら一緒に夜ご飯でもいかない?」
「あー……ごめんね。この後、人と会う約束してて」
「まじ? じゃあその人来るまで一緒に居よ」
「や、大丈夫。1人で待つよ」
「でも俺、名字さんともうちょっと一緒に居たいんだけど。話したいこともあるし。待ち合わせ相手来たら帰るからさ。ね?」

 ちょっと強引過ぎないかと思った瞬間、腕を掴まれる。振りほどこうと思ったけれど強い力で掴まれた腕はそう簡単にはほどけない。

「い、痛いよ」

 不快感が私を襲って脳裏には研磨の顔が浮かんだ。こんな事なら買い出しには行けないって断るんだった。なんて今更思ってもどうしようもないことを思ってしまう。
 こんなところ見られたくないけれど、研磨早く来てくれないかな。そう願っていると、背後から呼ばれる名前。

「名前。ごめん、遅くなった」
「研磨!」
「待ち合わせ相手ってこいつ? もしかして彼氏?」

 ではないけれど、彼氏って言ったらもうこんな事にはならないんだろうな。でも研磨の手前、彼氏ですなんて言えるはずもない。
 違うと首を横に振ろうとした時、研磨が言った。

「彼氏だよ。だから、その手離してもらいたいんだけど」

 紡がれた言葉に相手は「ごめんごめんと」軽い調子で、だけどバツが悪そうに駅の方へと踵を返した。改まって私に向き合った研磨が言う。

「……何口説かれてんの」
「く、口説かれてたのかな?」
「相手、下心丸出しだったじゃん」
「何も心には響かなかったけど……」
「他になんかされた?」
「ううん。腕掴まれた時の力はちょっと痛かったかなくらい」
「どこ?」

 掴まれた右手首を指さすととても優しい力で同じところを握られる。

「迷惑かけちゃったよね。ごめんね」
「別にこんなの迷惑じゃない。むしろ遅くなってごめん」
「謝らないでよ。研磨と約束してて助かったなって思ってるよ、私。研磨が来てくれなかったら強引に連れてかれそうだったし。咄嗟に私の彼氏って嘘つかせちゃったのは申し訳ないけど」

 私の腕を掴む手に少し力が加わる。だけど痛みは微塵もなくて、むしろそこから伝わってくる熱に心地良さすら感じていた。

「本当にしてもいいよ」
「……え?」
「本当に彼氏になってもいいってこと。……名前が嫌じゃないなら」
「い、嫌じゃない! 嬉しい!」

 間髪入れず言うと、研摩が緩く微笑んだ。浮かれた感情がいとも簡単にまた顔を覗かせるのだった。

(22.11.08)