※短編「買い出し(夏)」の時間軸を意識して書いてますが、該当の話を読んでいなくても全然大丈夫です。



「研磨、フォートナイトやろ」
「え、ヤダ」
「はやい! 皆待つ間暇だからデュオしようよ。私がSwichで研磨がPCで」
「だって名前、建築下手じゃん」
「研磨いるなら私が建築しなくてもビクロイとれるでしょ?」

 そりゃあ普段アリーナやっててチャンピョンリーグに参加する資格も持っている研磨からすれば私とするデュオはつまらないかもしれないけど。でもみんなを待つ間、暇だし。「一回だけでもいいからお願い!」と両手を合わせる私に研磨は溜息を吐いて言った。

「……一回だけね」
「やったー!」



「どこおりる?」

 バスの出発を待つ島で、近場にある建物を壊しながら研磨に確認する。出発まであと10秒。すぐ近くで私の破壊行動を見ている研磨はポップコーンを食べるエモートを見せた。

「レイジー・レイク」

 その言葉と同時にマップにはマーカーが置かれる。

「私ここ苦手なんだよなあ……」
「変える?」
「いや、いく。武器さえ手に入れればなんとか」

 出発まであと1秒。画面はすぐに切り替わり、島全体を見下ろしながら研磨がつけたマーカーの線が立ち昇る場所を探す。プロコンを強く握る。聞こえてくるゲーム音に混ざるように、ゲーミングPCを弄る音が重なった。

「うわ、結構降りてきてるな……」
「武器とれそう?」
「屋根に宝箱あったから降りたらすぐ開ける」

 早く降りろと願いながら周りを確認する。やばい、敵と降りる場所被ってるとヒヤヒヤしながらどうにか先に開けられた宝箱の中にはアンコモンのアサルトライフルが入っていた。すぐに装備し、同じ場所に降り立った敵に向かって銃口を向ける。
 エイムを合わせて、数発。跪く様にしてダウンした敵を脅してキルすると、リブートカードが現れる。

「キルした!」
「そのペアいまキルした」

 近くにあったリブートカードはなくなっていた。

「さすが……」

 研磨のいる安心感から警戒心も忘れて建物の中を捜索し続ける。地下に青い宝箱を見つけて開けると、今度はエピックのスナイパーライフルが出てきた。ラッキー。でもスナイパーライフル、上手に当てられないんだよね。

「研磨、スナイパーライフルいる? エピックの」
「名前は?」
「私より研磨のほうが使いこなせるから。いらないなら一応拾うけど。あとポーション見つからないからどっかにあったら教えてほしい〜」
「俺ミニポーションあるからあとであげる。スナイパーは名前が持ってなよ。使って慣れたほうがいいんじゃない」
「KODZUKENがそう言うなら頑張る」
「ちょっと」

 そんなくだらないやり取りをしていたら、ストームの輪が縮まるまであと1分を切ってしまった。今度はウィーピング・ウッズにマーカーがオカレ、車のクラクションが聞こえる。

「多分ここもう敵いないから向かう」
「私1人しかキルしてないや」

 周りを見渡すといくつかの建築物。綺麗に積みあがってるそれは絶対に研磨がやったとしか思えない。相変わらずえぐい。
 迎えに来てもらった車に乗り込む前に研磨からミニポーションを受け取る。途中で発見したポーションをのみ、体力が完全フルチャージされたところで、私たちはウィーピングウッズを目指した。樹木も、川も、草むらも関係ない。法定速度も、車線もなにもかも。ただひたすらに最短距離を突っ走る車は、目的地の手前で燃料が切れた。
 残り49人。

「あ、銃声聞こえる」
「SEのほう。2人」

 車から降り、目ざとく敵を見つけた研磨は敵を的確にキルする。身を隠すのも、相手を閉じ込めるのもうまい。まさにプロ……! と感動した私は、そんなタイミングで攻撃を食らってしまった。ヘッドショットではなかったけれど、スナイパーライフルで撃たれたのは痛かった。

「け、研磨さん……」
「ねえ」
「ごめん……研磨の立ち回りと指の動きに感動して……」

 周囲にいた敵を全てキルした研磨はダウンした私を担いで人目の触れにくい場所に移動する。周りを囲むように建築をすると、私をすぐさま復活させた。よかった、リブートカードにならなくて。使いこなせないけどせっかくエピックもってるのに、コモンのピストルだけになってしまったらさすがにお荷物すぎて笑えない。
 残り31人。

「回復ある?」
「あります」

 建築物の中で私が回復するのを研磨は待ってくれている。回復を終え、建築から離れる。
 敵と出会ったらキルして、時々回復して、リロードして、宝箱を開けて。NPCの攻撃を食らったり、UFOに攫われたりしたけれど、気が付けば残りの人数も14人で、ストームの円もかなり小さくなってきていた。
 この調子だとウィーピング・ウッズ周辺が最後まで円の中心になるかもしれない。立て続けに13、12と減った残り人数を見て私は言う。

「ビクロイ狙おうね」
「当たり前」

 その声は何よりも頼もしかった。
 ホタルの瓶で焼かれるの怖いなと思いながら、私は研磨の後をついていく。気絶しないように、出来るだけ研磨をアシストできるようにとアサルトライフルとタクティクルショットガンで出会った敵に向かって弾を打つ。

「レジェンドあるけどレールガンだったね」
「名前使ってみたら」
「無理無理。つかいこなせない。それにスナイパーあるし」

 私のキルした人が持っていたレジェンドのレールガンを無視して、円はさらに小さくなる。迫りくるストームをギリギリで回避した頃には残り人数が4人になっていた。つまり、多くてもあと2チーム。私達以外の2人がペアで残っていたとしても、その2人をキル出来ればビクロイだ。

「敵見つけられないな〜」

 隠れながらスナイパーライフルで遠くを見てみたけれど、それらしい人物はいない。銃の打っている場所も表示されていないし、向こうもプレイヤーを探している状況なんだろうか。

「いた」
「え、どこ? よく見つけられたね!?」

 その数秒後、画面に『VICTORY ROYALE』の文字が並ぶ。私が慌てて研磨のほうへ向かったのも束の間、しっかりとヘッドショットを決めた研磨は残りの2人をキルした。慌てて打った私のサブマシンガンは多分、少ししか当たってないだろう。

「やったー! ビクロイ! 私ほとんど何もしてないけど」
「あのさ……楽しかった?」
「え、楽しいよ?」
「何もしてないって思うのに、ビクロイとって楽しいのかなって思ったけど、楽しかったならまあ、良かった」

 PCから離れて近くにやってきた研磨はそう言った。少し困ったように。ビクロイとるのは楽しいけど、一番は研磨と一緒にするから楽しいんだよ。研磨はそれをわかっているだろうか。

「やっぱりまた一緒にしよう」
「名前がもっとうまくなったらね」
「えー! 研磨のレベルになるなんて一生かかっても無理。じゃあ、今度は一緒にヒューマンフォールフラットしよ! 平和、死なない、笑える! ほら、最高じゃん〜。ね、みんなも誘ってやろうよ」

 研磨の返事を聞くよりも先にインターホンが鳴って、私と研磨は顔を見合わせた。一緒に向かった玄関には黒尾先輩が立っている。

「おつかれ、おふたりさん」 
「クロ、ヒューマンフォールフラットダウンロードしておいて。名前がやりたいってさ」
「え、何の話?」

 黒尾先輩が私と研磨を交互に見つめる中、私はただじっと研磨の横顔を見つめた。

「別に、暇な時ならいいけど」

 小さく紡がれた研磨の言葉。私はにやけてしまいそうになるのを必死に抑え「楽しみ」とそれだけ言葉にした。



20210714 えむ


モドル