プロが教える体幹トレーニング。筋肉をつけても、体幹がなければぶれない体は作れない。
担当者がテーブルを挟み、牛島選手と影山選手に今日の説明をしていく。

「お伝えしていた通り、お二人の参加していただく企画は『プロが教える体幹トレーニング』です。まずは表紙になる写真と、インタビューページの写真撮影を行って頂きます。あとは、インタビューを行っている間に、事前に伺っていたお勧めのトレーニングをうちのスタッフ兼モデルがグリーンバックでやりまして終了前に確認頂きたいと思います。後日編集してトレーニングページを作成致しますので、」
「あの」
「なんでしょう?」
「そのトレーニングページのポーズは、俺と牛島さんがやらなくていいんですか?」
「……へ?えっと……それは、大丈夫です。そこまでして頂くのは、」
「俺も。影山と同意見だ。勧めるのは俺たちなのだから俺たちがやるべきだろう」
「いや、ですが、でもお二人のスケジュールもあるでしょうし」
「影山、この後は何かあるのか?」
「ないッス」
「ちょ、牛島さん?影山くん?こちらにも予定っていうものがあって」
「折角ならきちんとやりたいと思うのは悪いことではないと思うが」

珍しく饒舌な牛島選手と、それにこくこくと縦に首を振る影山選、その表情はいたって真剣である。アドラーズの関係者の方は困惑し、なんならこちらも困惑である。テーブルの端っこで話を聞くだけの私は困惑するだけで済むが、担当者にいたっては返答をしなければならないのだから心境を思うと居たたまれない。


「ど、どうします…?アドラーズさん的には…」
「本人がそう言ってるんで……どうです?」

この様子うかがい合戦、言うまでもない。何ターンか続いた。

▽ △ ▽ △


表紙カットの撮影は滞りなく進み、表情も素晴らしい。影山選手にいたってはCM出演が多いこともあり、自然に口角が上がっている。牛島選手と一緒の撮影なことも大きな理由かもしれないが、とにかく二人とも素晴らしい。Tarzamは体作りを目的とする雑誌なので、このパーフェクトなボディはうってつけである。ぴたっとしたスポーツTシャツを着ると、筋肉のおうとつがうっすら浮かび、引き締まった体なことが一目でわかる。

グリーンバックの撮影にいたっては、さっきよりも和やかな雰囲気だ。パーフェクトなボディを持った二人が体幹トレーニングのポーズをグリーンバックを背に撮っているが、なんというか、とても失礼だけど、笑いを堪える間に私の腹筋が割れてしまいそうだ。まさかこうなるなんて、今朝は誰も想像しなかった。なんなら暗がりのスタッフはラッキーとでも言わんばかりに企画資料を口元にあてているが、絶対あれは笑ってる。

冗談を言ったりするタイプのお二人ではないが、普段やっているトレーニングをコマ撮りするのはどうやら新鮮らしい。そしてお二人の息がぴったりだこと。クランチはぶれないし、全然ピクピクしない。しかも何枚も撮影することもあり一ポーズの時間は長い。

「次はヒップリフトお願いしまーす。一旦休憩いれますか?」
「俺は平気っす」
「だな、続けよう」

ヒップリフトの撮影に移るときは、すでに汗がじんわりと浮いている。そしてそれはもう清々しいほどに美しい光景だ。スタッフもグリーンバック撮影の後半に差し掛かった頃にはすっかりその光景にはなんの違和感も覚えていなかった。
スタッフが休憩の声をかけると、牛島選手が丁寧に頷き、それの少し後ろを影山選手が歩く。

「このウェアすげー着心地良いっすね」
「ああ。来月発売だったか」
「宜しければお持ち帰り頂いて大丈夫ですので」
「マジすか!」

生地の肌触りや伸縮性が気に入ったのか、影山選手がわくわくしたような表情で腕を回したりしている。もともとそんなに細かなイメージはなかったものの、勝手に思っていたイメージよりも二人は接しやすい。まぁ私は最初に挨拶したくらいだけど。

「そうなんですか!?ありがとうございます!」

牛島選手と影山選手のお二人と話す担当スタッフが声をあげて嬉しそうに嬉々としたのを遠くから眺め、和気あいあいとする雰囲気のあの輪がちょっとだけ羨ましい。


▽ △ ▽ △



滞りなく撮影は終了した。当初の予定よりも時間は延びたが、結果オーライ。アドラーズサイドも本の出来を楽しみにしているようでよかった。

「予定外の申し出まで頂き、ありがとうございました…!」
「いや、少々出過ぎたかもしれない」
「とんでもないです!トレーニングページも楽しみにしていて下さいね。頑張って編集しますので」
「楽しみっスね」
「ああ」

すっかり気に入ったウェアをプロテインなどの入った紙袋に入れた牛島選手と影山選手は、恐らく満足げな表情でスタジオを出ていった。アドラーズの関係者の方が、ありがとうございました、と最後にお辞儀をして扉が閉まる。グリーンバックの写真を再度チェックしだした担当スタッフが足をジタバタさせながら言った。

「二人とも、Tarzam毎号チェックしてくれてるらしいよ」

……なるほどね。ようやく色々と辻褄が合ったわ。スタジオにいるほぼ全員が納得の表情をしたのはこの瞬間だった。




20200926 たまご


モドル